氏康の領国経営

氏康の領国経営

 後北条氏は、初代早雲のときから戦国大名として登場した。戦国大名がそれ以前の守獲大名と違うのは、一つには、守護大名が荘園制の上に乗っかっていたのに対し、戦国大名は荘園制を否定していた点である。

 そしてもう一つは、守護大名が幕府・将軍に依拠していたのに対し、戦国大名は幕府・将軍から自立していた点にある。

 荘園制の否定ということがはっきり形の上で現わされたのが、戦国大名による検地の施行であった。後北条氏は、すでに初代早雲のときに検地を行っている。だから、早雲のときから戦園大名として登場したといえるわけである。

 そのあと、後北条氏では、当主が死んで代が替わったとき、かなり大がかりな検地を施行している。これを「代替わり検地」と呼んでいるが、氏康も、家督を継いだ天文十年(1541)の翌年から翌々年にかけて、相模中央部、武蔵南部と東南部、さらに伊豆の一部に一斉検知を行っている。

 なお、このときの氏康の検地は、自分の直轄地だけでなく、有力家臣の所領や寺社領にも及んでおり、氏康の権力が強大化していったようすを読み取ることができる。

 氏康はまた、天文十九年(1550)に画期的な税制改革を行っている。それまでの後北条氏領国には、前の時代からそのまま引き継がれてきた諸点役(しょてんやく)と呼ばれる種々雑多な税があった。氏康はこれを整理し、貫高の六パーセントにあたる段銭(たんせん)と、貫高の4パーセントにあたる懸銭(かけせん)とに整理統合したのである。

 農民たちは、年貢のほか、段銭・懸銭・棟別銭(むねべつせん)のいわゆる「三税」だけ納めればよいことになった。極端に負担が軽減されたわけではないが、それまで在地領主の恣意(しい)的な収奪にあった状態からすれば大幅な改善であった。

 そして、氏康の施策としてもう一つ注目されるのが、「小田原衆所領役帳(しょりょうやくちょう)」の作成である。これは、「小田原分限(ぶんげん)帳」などといわれることもあり、氏康時代の後北条氏家臣団名簿のように考えている人もいるが、それは間違いである。

 表題のとおり、所領役をかけるための台帳であった。ただ、表題は小田原衆とあって、小田原衆だけに限定されていたとの印象を受けるが、実擦は小田原衆だけでなく、玉縄衆や江戸衆、伊豆衆、津久井衆、三浦衆など全部で十八の衆が記載されている。一番最初が小田原衆だったため、それが全体の書名になってしまったのである。

 ところで、所領役であるが、これは、家臣たちが所持する所領に応じて賦課される軍役や普請役などのことをいう。

 この「小田原衆所領役帳」が作成されたのは永禄二年(1559)なので、その後、領国に組み込まれた八王子衆や鉢形衆、岩付(いわつき)衆などは含まれていない。しかし、家臣団統制がかなりの段階に達していたことを物語っている。

この文章について

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【出 典】広報おだわら(連載記事)
【元形態】紙媒体
【著者名】小和田哲男(静岡大学教授:歴史学)
【著作権/編集著作権】小田原市 1995-1998

1.早雲出自の謎

平成7年4月15日号所収

2.応仁の乱と早雲

平成7年5月15日号所収

3.北條早雲の伊豆討入

平成7年6月15日号所収

4.小田原城奪取

平成7年7月15日号所収

5.二代氏網の北條改姓

平成7年8月15日号所収

6.三代氏康と合戦

平成7年9月15日号所収

7.氏康の領国経営

平成7年10月15日号所収

8.北條氏の外交戦略

平成7年11月15日号所収

9.四代氏政の時代

平成7年4月15日号所収

10.五代氏直の家督相続

平成8年1月15日号所収

11.小田原合戦

平成8年2月15日号所収

12.北條五代が残したもの

平成8年3月15日号所収

【お読みください】

  1. 本文に記されている内容は、平成7年度執筆当時のものです。
  2. 表記は、西暦のみを全角漢数字から半角英数字に置き換えました。また、HTML文書の改行幅が狭いことを考慮し、段落ごとに1行の改行を挿入していますが、原文は縦書きのベタ打ちです。
    また、平成9年度の時点では、小田原市は「北条」という表記を用いており、タイトルは「北条五代記」となっていますが、オリジナルは「北條」となっています。本文の表記については、原文のまま「北條」となっています。
  3. この「新・北條五代記」は小田原市の著作物であり、情報の全体もしくは部分を、複製したり加工したりすることはできません。同様の情報をホームページで公開しているものについては、リンクを認めています。原則としてリンクした場合は電子メールでkoho@city.odawara.kanagawa.jpに、もしくは広報広聴課(電話 0465-33-1263)へ連絡をお願いします。

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