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2016年04月08日(金)

小田原文学館「牧野信一とサクラの花びら」展

 今、西海子(さいかち)小路は桜並木が満開で、見事なピンクのトンネルができています。田中光顕伯爵の別邸であった「小田原文学館」の庭の桜も満開で瀟洒な洋館に映えています。この小田原文学館を会場に、3月20日~4月24日までの期間で特別展示『牧野信一とサクラの花びら』展が開催されています。
 
牧野信一と小田原
 
 牧野信一(まきの しんいち)は、今年生誕120年、没後80年を迎える作家で、明治29年(1896)11月に小田原藩士族の緑町の家に生まれました。父親は単身渡米してしまい、祖父母の手で育てられました。小学校の頃に外人宣教師から英会話を習いましたが、それも会えずにいる父親のいるアメリカへ渡りたいという想いがあったのかもしれません。明治42年(1909)に県立第二中学校(現小田原高校)へ入学しました。同期に、後の小田原市長となる鈴木十郎がいました。信一は鈴木十郎と終生の友となりました。大正3年(1914)18歳で早稲田大学高等予科に入学し、大正5年(1916)に早稲田大学へ入学しました。早稲田大学英文学科で学ぶ傍ら文学に関心を持ち、同じく早稲田に入学した鈴木十郎と創作を語り合ったそうです。
牧野信一のポートレート牧野信一のポートレート
卒業後は、鈴木十郎の義兄巖谷冬生氏の紹介で、時事新報社雑誌部へ就職しました。その年の10月には同人誌「十三人」を創刊し、「爪」を発表しました。この作品が島崎藤村に激賞されて、世に知られるようになります。大正10年(1920)に鈴木十郎らと同人誌「金と銀」を創刊しますが、3号で終わってしまいました。このように、牧野信一は、鈴木十郎元小田原市長とも強い友情で結ばれていて、小田原に深い縁のある作家でした。
「牧野信一とサクラの花びら」展
 
「牧野信一とサクラの花びら展コーナー「牧野信一とサクラの花びら展コーナー
 会場は本館1階の第2展示室で、玄関左側すぐの展示室入口に特別展示コーナーがつくられています。壁には、牧野信一のポートレートや年譜が掲げられて、牧野信一が主宰した文芸雑誌「文科」、自筆の「病状」の赤入れ原稿などが展示されています。
 また、朝日新聞に持ち込んみながら遺稿となった「サクラの花びら」の草稿と断片も展示されています。この作品は、牧野信一が亡くなったとき、机の上に広げられた状態で発見されたそうです。
 牧野信一は、大正13年に「父を売る子」、昭和6年「ゼーロン」、昭和9年「鬼涙村」などを発表して反響を呼びました。幻想化された郷里小田原を舞台とした神話的物語を多数発表して、「ギリシャ牧野」と評価されるなど活躍しましたが、39歳の若さで自ら命を絶ってしまいました。


 
牧野信一文学碑牧野信一文学碑
 小田原出身の牧野信一を顕彰するため、「牧野信一文学碑」が、出身校である小田原高校に隣接する城山公園脇に立っています。この碑は、牧野信一の40年忌を記念して、尾崎一雄、川崎長太郎などが発起人となった「牧野信一の文学碑を建てる会」が昭和51年(1976)に建立しました。碑文は、井伏鱒二が牧野作品の「剥製」の中から選んだのだそうです。
牧野信一と牧野邦夫
牧野邦夫自画像牧野邦夫自画像
 牧野信一とは30歳違いの従弟に画家「牧野邦夫」がいます。牧野邦夫は、牧野信一の父親の弟義郎の次男という関係です。邦夫は幼少期に小田原駅西口付近に住んで城内小学校に通いました。父親の東京転居で小田原を離れましたが、。終戦後小田原へ戻ったそうです。その後、美校(東京芸術大学)を卒業して、どこの団体にも所属せずに、自己独自の絵画世界に没頭します。オランダの生んだ巨匠レンブラントに心酔していた牧野邦夫は、光と影の陰影表現で極めて精緻な技法を駆使して幻想的で奇怪な独自の世界を描き続けました。自画像も写真と見紛うほど写実的です。
 信一と邦夫の2人は、作家と画家という芸術ジャンルは異なっても、「幻想的」という精神性において共通するモチーフに、終生取り組んだと云えるでしょう。
 この従兄弟同士の2人について、牧野信一生誕120年、牧野邦夫没後30年を記念して、4月16日(土)と17日(日)に「牧野信一生誕120年、牧野邦夫没後30年記念イベント」が、小田原市民会館で開催されます。16日には、明治学院大学教授で美術評論家の山下裕二先生が『牧野邦夫の画業について~リアリズム・幻視・土俗性~』というテーマで講演され、17日には、朗読家の蔀英治氏による記念朗読会『「熱海線私語」~牧野作品から浮かび上がる小田原の近代~』が行われます。17日には、女鹿伸樹氏による「外郎売」の口上も併せて上演されます。
西海子小路の桜並木西海子小路の桜並木
 また、小田原文学館では、今秋に牧野信一の特別展も開催する予定だそうです。こちらも開催が待たれます。
 西海子小路の桜並木は、今がまさに満開です。お花見がてら、是非小田原文学館の特別展示『牧野信一とサクラの花びら』展へお出掛け下さい。
(深野 彰 記)
 

2016/04/08 14:15 | 芸術

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