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2016年06月24日(金)

【小田原の街でこんな美術展】 第69回市展[前期]

正確には「第69回小田原市美術展覧会」、通称「市展2016」がさる5月25日(土)から29日(日)の5日間、ことしは「小田原市市民会館」で開催された。前期と後期に分かれ、前期は洋画、日本画、版画、彫塑の4部門であった。例年、会場となる「けやき」は耐震工事のため当面の使用が出来なくなっている。展示点数は、一般・招待・高校生(7点)を合わせて総数115点(洋画82日本画20、彫塑13)であった。この記事ではモチーフに「人物」とを描いた作品と高校生の作品についてレポートする。

■若さのあふれるパステルカラー■
「青春時代」は矢沢進さんの作品(一般)。5人の若者が夏の海辺に立つ。明るいパステルカラーと細身にデフォルメされた体に若さが溢れる。メールが流行る今では珍しい航空便の封筒が過去をイメージさせる。砂浜に転がるバットと女性の手にあるボールは青春の象徴とも見える。ただ、青春時代の甘い感覚とバットとボールという即物的なモチーフに違和感を覚えた。中央の女性はボッティチェリのヴィーナスの誕生を思わせる。
 
■子どもたちの声が聞こえる「まぁだよー」と「あじさい祭りのころ」■
「まぁだゝよー」は小林光一さんの油彩(招待)。今どきかくれんぼする子ども達をみかけない。「まぁだゝよー」という声も懐かしい。作家さんの昔の日々か。背景は古い蔵のようだ。子ども達の走り隠れる様子が生き生きと描かれている。川口道さんのほのぼのとした作品「あじさい祭りの頃」は、くったくのない妹となにか真剣な面持ちの姉の2人を描いた作品(一般)。梅雨のころでこそ大きな一つ傘の中で交わすのは、二人だけの内緒の話しかもしれない。
 
■観る者の不安を吸い取る森の暗さ■
「森」は高校生山崎早永さんの作品。一般の部の奨励賞を受賞した。苔むした古木や倒木の暗い森。その根元に蹲る少女。耳を押さえて聞くまいとしているのか自身の心を聴いているのか。眼は虚ろに開いているが、どこを見ているのか。過去か未来か。現実を否定しようとしているのか。この絵は、観るものの不安をおのずと吸収しているように思える。よく言う。不安な時は不安なものを楽しいときは楽しいものを感じとろうと。ただ、気になったのは、少女が暗い森に対して浮き上がっているように見え、森と少女の心のつながりが途切れている感じがする。いっぽう、その違和感は、少女が不安を拒絶し、自身の存在を強く訴えているのかもしれない。遠くに見える明るい部分は、少女の遠い救いを示唆しているのか。
 
 
■女性の体が表す生命感を謳う「輪廻」と「海底」■
裸婦2点。井上優さんの「輪廻」は可愛く微笑む幼子と立つ裸婦を描く(招待)。裸婦の表情は微笑みながらも厳しい。輪廻転生、母の命は子に継がれ生命の輪が廻る。命は泡に乗って廻るのか。川辺歩さんの作品「海底」は“みそこ”と読むようだ(一般)。海藻のような黒髪を水に揺らし軟体動物と戯れる裸婦。海の底の神秘と女性の体に象徴される生命の発祥とを、作者の感性で描いたものであろう。「輪廻」「海底」ともに、官能的な表現をしつつ生命の不思議さを提示している。
 
■若い世代の精神世界を描く高校生の作品■
高校生の作品は7点。うち1点は一般の部で奨励賞、1点が高校生奨励賞を受賞している。
荒井あすかさんの「夏の翳り」は神社の森の木々が夏の太陽を遮り静かな深い緑の空間をつくっている。鳥居のなかの道は奥に行かずに上に登っているように見えるのが、現実の風景から非現実の風景へ誘うようだ。「好かれる」は大塚里菜さんの作品。竹らしい手作りの人形が2体、それぞれ別の方向を向いて座っている。女の子らしい人形の視線は、男の子らしい人形の方を向いている。しかし男の子は、そっぽを向いている。しかし、ともに無表情にも見える。「好かれる」とは何か。転がる3つのボールは何を象徴しているか。背景の観葉植物と霧吹き。高校生らしく素直な作品だった。「街」は夕暮れ。無機質なビル群の窓には灯りがついている。街の風景を見るとよく思う。あの窓ひとつひとつの内側の一階一階に会ったことのない人たちがいる。もうじき灯りはひとつひとつ消えてゆく。空の雲は都市の不安定さを表すように厚い塊となって赤く反射している。その雲もやがて闇の中に溶け込んでゆく。渡邉悠史さんの創作の動機を赤黒い雲に感じる。◇芸術作品の見方は観る者の自由だという。このレポートでは、作品からできるだけ多くのことを引き出そうと自由に書かせてもらった。(ゆきぐま記)◇
 
第69回小田原市美術展覧会
【前期】洋画/日本画/版画/彫塑
前期 2016年5月25日(水)-29日(日) 終了
時間 9:30-18:00
会場 小田原市市民会館 小ホール・展示室
照会 小田原市文化部文化政策課 0465-33-1706
 
 
 
 
 
 
 
 
 

2016/06/24 08:56 | 美術

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