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2016年10月25日(火)

音楽アウトリーチ事業・オペラ歌手の歌唱

小田原市立桜井小学校小田原市立桜井小学校
6月の矢作小学校で開催された狂言のアウトリーチに引き続いて、今回は桜井小学校で行われた、オペラ歌手による歌唱のアウトリーチを取材してきました。これも、小田原市文化部文化政策課が実施している「小田原市文化創造活動担い手育成事業」の一環です。狂言と同じように、小学生にとってオペラ歌手の歌声を聴く経験は、ほとんどなかったことでしょう。プロのオペラ歌手による生の歌声を聴いて、子どもたちがどのように反応するか楽しみです。今回は、音楽アウトリーチ事業の現場からのレポートです。

桜井小学校のアウトリーチ
10月5日(水)に実施された音楽アウトリーチ事業の会場は、小田原市立桜井(さくらい)小学校の体育館でした。桜井小学校は、小田原市の最も北側に位置した小学校です。小田急線栢山駅に近いこの地は、二宮尊徳先生の生誕地です。校庭には、金次郎の像と尊徳の教え「積小為大」の石碑があります。

 
「積小為大」石碑「積小為大」石碑
当日は、時折日差しの射す曇りでしたが、体育館の中はちょっと蒸し暑く、当初閉められていたカーテンが開けられて外気を入れるようにしました。正面の舞台を前に、既に4年・5年・6年生の約300人が、床に座って開演を待っていました。子どもたちの後には参加する保護者のためにパイプ椅子が用意され、10人ほどが参加されていました。
「ふるさとの四季メロディー」、後は父母席「ふるさとの四季メロディー」、後は父母席
ふるさとの四季メドレー
いよいよ開演です。舞台下の脇のドアから5人出演者たちが登場しました。舞台上ではなく、子どもたちが座る体育館の床面に立ちました。恐らく子どもたちに一歩でも近づいて歌声を聴かせたいと云う演出なのでしょう。
登場すると、すぐに歌唱が始まりました。「故郷」から始まった「ふるさとの四季メロディー」は、子どもたちにもなじみ深い曲ばかりです。春の小川、朧月夜、鯉のぼり、茶摘、われは海の子、村祭、紅葉、雪と続き、日本の四季を歌った曲で一年を巡り、また「故郷」に戻って終わりました。誰でも耳慣れた歌ばかりなのですが、オペラ歌手の情感豊かな歌声は、改めて日本の自然の豊かさとそこに暮らす人々の穏やかな姿を想い起こさせてくれました。
今回の出演歌手は、ソプラノ:秦貴美子さん、メゾソプラノ:牧野真由美さん、テノール:倉石真さん、バス・バリトン:清水宏樹さんの4名の方で、ピアノ伴奏は、伊坪淑子さんです。ソプラノの秦さんは小田原市の出身です。ふるさと四季メドレーの後、それぞれの方が自己紹介されました。歌手の4人は、ともに東京芸術大学の同窓生で、日頃の活動も一緒になることも多いそうです。
 
メゾソプラノ・牧野さんの「カルメン」メゾソプラノ・牧野さんの「カルメン」
オペラの名曲シリーズ
次は、4人の合唱によるイタリアのヴェスヴィオ山の登山電車を歌った「フニクリ・フニクラ」です。この曲は世界で最初の観光客誘致の宣伝曲だったとの解説で、明るく賑やかなこの曲のイメージの理由が分かりました。
いよいよ、オペラの名曲シリーズです。最初は、ビゼー作曲「カルメン」より「“ハバネラ”~“セギディーリャ”です。とても有名な曲ですから、子どもたちも一度は聞いたことがあることでしょう。牧野さんの身振りも交えた豊かな歌声は、カルメンの情熱的な性格をも表現していて、その迫力に子どもたちも驚いたことでしょう。
 
ソプラノ・秦さんの「私のいとしいお父様」ソプラノ・秦さんの「私のいとしいお父様」
続いて、プッチーニ作曲「ジャンニ・スキッキ」より“私のいとしいお父様”をソプラノの秦さんが、子どもたちの目の前で歌いました。ソプラノの華やかな歌声は、父親を想う気持ちを優しく、時として心強く歌い上げていました。
テノール・倉石さんの「女心の歌」テノール・倉石さんの「女心の歌」
次は男性歌手の登場です。テノールの倉石さんによる、ヴェルディ作曲「リゴレット」より“女心の歌”です。舞台の袖から登場した倉石さんは、歌いながら階段を下りて体育館の床面に降りてきました。目の前で歌われる歌声は、マイクなしでも体育館中に響き渡りました。

オペラでは、マイクは使いません。生の歌声を劇場中に響かせるのです。そのために歌手は並々ならぬ練習を続けているのです。
みんなで「もみじ」を歌いますみんなで「もみじ」を歌います
みんなで歌おう
オペラの名曲を堪能した後は、子どもたち全員が立ち上がって、オペラ歌手と一緒に歌いました。曲は以前より練習してきた「もみじ」です。秦さんから、「背筋を伸ばしましょう」、「お腹で呼吸をして、その呼吸で声を出しましょう」と、声を出す基本を教えてもらいました。オペラ歌手と一緒に歌う体験など、めったにあるものではありません。子どもたちも緊張しながら歌い始めましたが、途中からは力強い歌声になりました。
2匹の猫が歌います2匹の猫が歌います
愉快な曲「猫の二重唱」
再度床に座ると、愉快な曲が始まりました。ロッシーニ作曲の「猫の二重唱」です。秦さんと清水さんが、猫耳のカチューシャを付けて登場すると、会場中が笑いに包まれました。
秦さんのメス猫秦さんのメス猫
歌は全て、「ニャーゴ」「ニャア、ニャア」と猫の鳴き声です。手を曲げて前足のようにした猫の2人は、子どもたちの中に入って、ニャーニャーと猫語で歌いかけると、そこここに笑いが起こりました。
4人全員で「乾杯の歌」4人全員で「乾杯の歌」
最後の曲
オペラ歌手の歌声に驚いたり、笑ったりしているうちに、1時間があっという間に過ぎ、いよいよ最後の曲となりました。ヴェルディ作曲オペラ「椿姫」より“乾杯の歌”です。歌手の4人全員が床面に降りて、歌いました。軽快で愉快な気持ちになるいかにも乾杯したくなる歌でした。

大きな拍手の中で予定された全ての曲が終了しましたが、前に掲げられたプログラムには「アンコール」曲として「メリー・ウイドウ・ワルツ」が書かれていました。普通は、一度舞台を去った歌手が、拍手に促されて再登場するのですが、秦さんが「書かれているので・・」と紹介して、そのままアンコール曲が歌われました。
プロの歌手の歌を聴く機会は、大人になっても、そうあるものではありません。ましてや、その指導を受けるなど、普通はありえないことでしょう。アウトリーチ事業は、子どもたちが本物に触れ、実体験をすることで、豊かな感性を身につけられる貴重な機会になっていると感じました。
(深野 彰 記)
 

2016/10/25 17:02 | 音楽

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