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2017年07月11日(火)

第14回文化セミナー~地域発・住民主体のアートプロジェクト~

会場のUMECO会場のUMECO6月18日、おだわら市民交流センター UMECO会議室4にて、小田原市文化創造活動担い手育成事業「第14回文化セミナー 地域発・住民主体のアートプロジェクト」が開催されました。講師は、葉山芸術祭実行委員、相模湾・三浦半島アートリンク推進会議委員の「松澤利親」さんと、相模湾・三浦半島アートリンク推進会議副代表で文化政策研究者の「伊藤裕夫」さんです。講演は「地域発・住民主体のアートプロジェクト」という、毎年多くのアートイベントが開催されている小田原にとっても興味深いテーマで、多くの市民が参加しました。


■葉山芸術祭とは?

文化シンポジウムのチラシ文化シンポジウムのチラシ「葉山芸術祭」は、葉山町で毎年4月中旬から5月中旬まで開催されるアート・フェスティバルです。今年で25年目の四半世紀も続いていますから、日本において地域の芸術祭の先駆けともいえる存在です。芸術祭期間中は、個人の住宅、公共施設、神社の境内、海岸、店舗などあらゆる場所が会場として使われて、町中がアートに溢れるそうです。

会場の風景会場の風景葉山芸術祭の特徴は、テーマにあるように、「地域発・住民主体」のプロジェクトであることです。「地域発」とは、美術館など特定の施設内で開催される芸術祭ではなく、アートの展示やワークショップ、演奏、討論会、フィールドワーク、カフェ開店などを、町中のあらゆる場所を使って地域から発信・活動していることです。また、それを「住民主体」で実施し、行政やそれに準ずる団体またはビジネス集団が中心となって実施する祭りではないことが、もう一つの大きな特徴となっています。


■伊藤裕夫さんの講演

丁寧に語りかける伊藤裕夫氏丁寧に語りかける伊藤裕夫氏最初の講演者は、大学で教鞭をとる文化政策研究者の伊藤裕夫さんでした。

最初に、「アートプロジェクト」とは何かについての話から始まりました。アートプロジェクトとは、一般的に定義すれば、「現代芸術の一形態」ですが、今では「芸術祭からコミュニティの課題を解決するための社会実験的な活動まで、幅広い形で現れるもの」を指すように変わってきているそうです。

葉山芸術祭をきっかけに、「相模湾・三浦半島アートリンク(SaMAL)」と名付けられた地域発アートプロジェクトのネットワークが形成されています。伊藤氏は、SaMAL推進会議の委員をされており、そのコンセプトを中心となって構築されてきました。SaMALには、葉山芸術祭の他、「三浦まちARTプロジェクト」や「真鶴まちなーれ」など、文字通り三浦半島・相模湾の東端から西端までを包含する広大な地域同士をつないでいます。

笑顔で語る伊藤裕夫氏笑顔で語る伊藤裕夫氏地域発アートプロジェクトの特性の一つは、「地域活性化」です。アーティストが主導して全国に発信することで、アート愛好家が全国から集まり、全国にその名を広めてくれます。 が、「住民主体」でより重要なのは、 地域住民が主導することで、地域住民同士の交流の場となり、更には、地域の課題解決に取り組んでいくことです。それにより、地域が活性化していくのです。

伊藤氏は、故鶴見俊輔氏の「限界芸術論」を引きながら、「限界芸術」即ち、芸術と生活の境界線上に位置する、専門的芸術家によるのではなく一般市民によって享受される芸術が、純粋芸術と大衆芸術が分裂した現代において、市民が積極的に参加する芸術として意義を生み出している、と説明されました。

アートプロジェクトの変化アートプロジェクトの変化アートプロジェクトにも多様な形態が生まれており、公共事業化したり、商業化したり、あるいは自閉的なサブカルチャー化したりして変化しているものもあります。そのような中で、葉山芸術祭は、アーティストが運営主体となって、まちづくりや地域活性化もミッションとして捉えているアートプロジェクトと位置付けられているのです。

伊藤氏のちょっとアカデミックなお話は、葉山芸術祭の活動を理論付けながら、活動メンバーにその活動の意義を伝えている、と思いました。


■松澤利親さんの講演

熱を込めて語りかける松澤利親氏熱を込めて語りかける松澤利親氏二人目の講演者である松澤さんは、1993年から始まった葉山芸術祭が、草創期から一つの転換期を迎えた1996年第4回から実行委員をされています。松澤さんは、その多彩な経験を生かして、葉山芸術祭を引っ張ってきた一人です。葉山芸術祭の実行委員会は有志による合議運営体制を取っていますが、代表がいません。それぞれの担当が、その担当の代表となっているそうです。本部予算は総額200万円で、そのほとんどが参加費と寄付で賄われ、葉山町の助成金は約30万円です。収入を特定の団体・個人に偏らない様に配慮しているそうです。このことからも葉山芸術祭が住民主導型であるといえましょう。芸術祭は参加企画の集合体であり、展示だけでなくワークショップなど様々な形で企画が行われています。松澤さんのお話で面白いと思った言葉は、「ゆる~い」です。芸術祭は、必ずしも明確なテーマや目的を明示しているわけでもなく、ゆる~く価値観を共有しているだけだそうです。何事もきっちりと定義して、厳しく管理したがる現代社会において、この「ゆるさ」が、参加企画を増やし、長く継続出来てきた理由のような気がしました。「地域の、地域による、地域のための、地域発住民主体のアートプロジェクト 生活芸術祭」というコンセプトらしきものが、ゆる~く参加者を包み込んでいるようです。葉山芸術祭に集まる表現者・鑑賞者・つなぎ役の三位一体を繋いでいるのも、この「ゆるさ」という寛容さなのでしょう。

笑顔で語る松澤利親氏笑顔で語る松澤利親氏もちろん、運営に関するお金のことや安全に関する事項は、きちっと「固く」実施しているそうです。

松澤さんは、極めて現実的に芸術祭の運営に取り組まれていることがよく分りました。これまで数々の試行錯誤や困難の解決があったにせよ、肩ひじ張ったり、無理して拡大を図ったりせず、「ゆる~く」できることに取り組んで来ているのだと感じました。

葉山芸術祭のペナント葉山芸術祭のペナントゆる~く、しかし、しっかりと取り組まれてきた葉山芸術祭ですが、それでもなお、変化への対応としての課題の認識もされていました。「新しい参加者と以前からの参加者の価値観や意識差」や「実行委員会後継者問題」、そして「運営の簡素化」の3つを課題にあげられていました。人材育成については、実行委員会が組織的事業としては行っていないそうですが、SaMALの一環として、関東学院大学が文化庁の補助を受けて、各アートプロジェクトの連携と人材育成講座を実施しているそうです。

地域発・住民主体のアートプロジェクトとして「葉山芸術祭」を主導するキャラクターも人生経験も異なる実行委員の皆さんが、活動の広がりをどう実現していくかを無理せず現実的に取り組んできたからこそ、葉山芸術祭が25回も続けてこられたのだ思いました。小田原でも数多くのフェスティバルや祭りがおこなわれていますが、SaMALに加わっている活動はありません。そして、葉山芸術祭と比較すると、今一つ、市民の中にも、地域外に対しても、広がりが感じられないように思われました。今回の文化セミナーをきっかけにして、これまでの小田原のアートプロジェクトの見直しや、新しい展開が生まれることを期待したいと思います。(深野 彰 記)

2017/07/11 10:31 | 芸術


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