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2015年06月02日(火)

小田原の街でこんな美術展 ~箱の不思議があふれる「箱ざんまい」横井山泰個展~

私たちの世界は3次元でできているという。3つの方向は無限に宇宙に伸びている。3つの辺が等しい立方体は3次元世界を象徴する。本箱、衣装箱、宝石箱、カラクリ箱、手品箱…どれも身近にあって遠い不思議を感じさせる。箱は6つの面で囲まれた空間を創る。箱を手に取るとひっくり返して反対側も見てみたくなる。どこかに蓋はないかと探してみる。何が入っているかと開けてみたくなる。ギャリ―新九郎で開かれていた横井山泰さんの「箱ざんまい」は、そんな箱の謎であふれる作品展だった。
■立方体パズルから無限の創造へ■
「パズル」は、小学校で使われているというパズル工作に着想したと横井山さん。16個の立方体を平面に並べてそれぞれの面をカンバスとして独創的な絵を描く。いったん崩してもとの絵を再現したり、異なる面を組合せて新しい画面を作りしたりする。1つの立方体に6面があり、上下左右にひっくり返して4通りの変化がある。また、立方体16個を一つひとつ違った順に並べると16!(階乗)すなわち20922789888000通りとなる。6×4×16!は約500兆通り。日常生活では、ほぼ無限大といってよい数だ。ここから発展して、横井山さんの作品は無限大の世界に広がる。
■なんとも言えない共感をよぶタイトル■
9つの正方形に様々な表情をもつ人・鬼・動物たち。「ひとりじめはなしよ」「ながれる星のサーカス」「人呼んで鬼」などなど、それぞれにつけられたタイトルが絵とちょっとずれているところに何ともいえない共感を呼ぶ。絵と観る人の間に感情の余裕をくれているのだろうか。「これからのはなし」、この「ネコらしい」主人公は何をはなすのか。「さあ、君の将来を話そう」と言わんばかりの見開いた眼と大きな口が迫る。犬の眼が愛くるしい「わたしのきもち」。名前は「ボンちゃん」という。横井山さんの愛犬だ。
■語りかける動物たちの言葉は私たちの心■
縦に3個かさねた70センチ角のキューブはパズルの発展したもの。それぞれがグルグル回って、思わぬ違った像が出来上がる。これは、人の心を持ったお父さん鬼とお母さん鬼か。何から逃げるのか。暗闇に飛ぶウサギは「きみといつまでも」。月はちょっといびつで薄暗い。恋人のウサギに逃げられても悲壮感はない。そばで「オヤオヤ」と見物しているのは横井山さんとボンちゃんか(小さくて見えませんが…)。横井山さんの作品で語りかける動物たちの言葉は、私たちの心でもある。
この世界は3次元。3次元と言うとタテ・ヨコ・オクユキとか、学校でならったx軸・y軸・z軸とか、つい3つの方向に分けてしまうが、実は方向なんてないのではないか。方向は人間が便利のために定めた仮の姿。「箱」を見るたびに、自分が定めた約束に自分を縛る自分を想ったらどうかなとも思う。そんなとき、数学はいらない。 (記 ゆきぐま)

 
横井山泰(よこいやま やすし)さん: 2003年多摩美術大学大学院油画専攻を修了、2004年岡本太郎記念現代芸術大賞展特別賞、シェル美術賞2005展審査員奨励賞などを受賞。2010年文化庁新進芸術家海外研修員として渡仏。ギャラリー新九郎では、2006年から毎年個展を開催。小田原近郊では、Artist Residence in ODAWARA、足柄アートフェスティバル工場まるごとフェスティバル・プロジェクトに参加。そのほか東京、川崎、相模原、上海、北京などで個展・グループ展。      

 

「箱ざんまい」横井山泰個展
□会期 2015年4月29日(水)‐5月11日(月) 終了
□会場・連絡先 ギャラリー新九郎 小田原市栄町2‐13‐2 
        0465-22-1366
 

2015/06/02 13:30 | 美術

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