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2015年11月06日(金)

「箱根寄木細工の伝統と未来」―世界の寄木とともに―

10月24日(土)から31日(土)、元箱根の「やまぼうし」において、「露木清高 箱根寄木細工の伝統と未来」-世界の寄木とともに-展が開かれました。元箱根の箱根関所跡の近くから椿ラインを上っていく途中に「やまぼうし」があります。女優の浜美枝さんのご自宅で、ギャラリー等に利用されています。
会場の元箱根にある「やまぼうし」会場の元箱根にある「やまぼうし」
古民家12軒分の古材で建てられた「やまぼうし」入ると、その太い立派な梁の迫力に度肝を抜かれました。アーチのように湾曲した梁は、力強くどっしりとして、いかにも家を支えているぞ、という安心感を与えてくれます。今では、このような木材自体を手に入れることすらできないでしょう。壁に組み込まれた古材も、それだけでアートのようです。展示会場の空間は、木を材料とする寄木細工を飾るのに最適な空間と感じました。

 

展示会場の太い梁展示会場の太い梁
展示会場の木組み展示会場の木組み
ブラジルの寄木細工の箱ブラジルの寄木細工の箱
■世界の寄木細工■
今回の展示会の最大の特徴は、箱根寄木細工だけではなく、世界中から寄木細工の作品が集められていることです。寄木細工は日本独自のものであると思っていましたが、実は、世界中の国々で寄木細工がつくられているのだと云うことを知りました。露木さんは、日本の伝統工芸品をブラジルで紹介するミッションに参加されたた時、ブラジルにも箱根寄木と全く同じような寄木細工があるのを知って大変驚いたそうです。

 

フランスのアールヌーボー・ガレ作の    寄木トレーフランスのアールヌーボー・ガレ作の    寄木トレー
今回出展された世界の寄木細工作品は、一緒に展示会を企画された金田理恵さんのコレクションです。金田さんは世界中を旅しながら、それぞれの国の寄木細工を集めてこられました。イギリス、フランス、スペインなどの西欧諸国はもちろんのこと、エジプト、レバノンなどの中近東諸国にも寄木細工があるのです。
左側がマオリ族の寄木ボウル       右側が露木さんの作品左側がマオリ族の寄木ボウル       右側が露木さんの作品
もっとも驚いたのは、ニュージーランドのマオリ族の寄木細工のボウルです。露木さんが製作された箱根寄木のボウルと並べて展示されていましたが、その感性は響き合っているように感じたほどでした。
露木さん作のテーブルと         アールデコのガラス箱露木さん作のテーブルと         アールデコのガラス箱
露木さんは、2010年に箱根の「ラリック美術館」で、ルネ・ラリックのガラス作品と箱根細工とのコラボレーション展を行いました。どちらもアール・デコスタイルのデザインで、驚くほど似ています。その時に出品された露木さんデザインのテーブルも展示されていました。
■箱根細工の世界との出会い■
19世紀のパリ万博出品の箱根寄木手箱19世紀のパリ万博出品の箱根寄木手箱
会場の奥の一角に、素敵な寄木手箱がありました 。見ると19世紀のパリ万博に出品された箱根寄木細工の作品でした。金田さんにお聞きすると、スペインで入手されたものだそうです。同じものが2点出品され、どのような経緯だったのか、スペインの骨董屋にあったのだそうです。幕末から明治初期にかけて、日本の工芸品が数多く欧米諸国へ輸出されたそうです。武士階級が崩壊する中、需要を失った工芸職人たちは、新しい市場を求めて万博などに積極的に出品したのです。箱根寄木細工も新しい世界にチャレンジしていたのでしょう
露木さんの卓とエジプトの脚のコラボ露木さんの卓とエジプトの脚のコラボ
金田さんが紹介してくれた八角形のテーブルがありました。卓部は露木さん作の寄木でシンプルな木の色をデザインしてありますが、脚部がエジプトの窓の桟をデザインしています。昔のエジプトでは、女性は顔を他人に見られないように、桟が嵌っている窓の隙間から外を覗いたのだそうです。そんな逸話があるデザインです。そして、卓と脚は分かれて、脚部はたためるようになっています。運びやすいような仕掛けは遊牧民の智慧だそうです。日本の寄木とエジプトの木工の見事なコラボレーションです。
■箱根細工の未来■
「露木清高 箱根寄木細工の伝統と未来」-世界の寄木とともに-展を見学して、箱根寄木細工の未来を考えていました。そのキーワードは、まさしく展示会のサブ・テーマである「世界の寄木とともに」にあると感じました。世界中に寄木細工はあります。寄木細工は人類が木を加工する能力を手にした時からDNAに擦り込まれて、人類が世界中に移動して行ったことに伴って世界中に展開していったのではないか、という仮説を考えたくなりました。箱根寄木細工が小田原・箱根の地に根を下ろしながらも、枝を世界に伸ばしていき、世界中の寄木細工とともに葉を茂らせて寄木細工の豊かな森林を創り上げて行く姿を想像しました。今回の展示会は、寄木細工の無限の可能性を秘めた未来を示してくれたと思いました。
露木さんが若手寄木職人仲間と活動してきた「雑木囃子」(ぞうきばやし)は、今年で10周年を迎えます。それを記念して、「雑木囃子十周年特別展」が11月20日(金)から23日(月)まで板橋の松永記念館・老欅荘で開催されます。箱根寄木細工の今と未来が、そこで展開されることでしょう。是非、皆さまお出掛け下さい。
金田理恵さんは、「Nefer Gallery」(ネフェル ギャラリー)で、エジプトの手工芸作品を紹介しています。金田さんはエジプトやアフリカの難民の子どもたちの支援活動もしています。Nefer Galleryの収益金の一部が、直接子どもたちの施設に寄付されるそうです。「Nefer Gallery」では、11月11日(水)から11月15日(日)まで、「職人展―エジプト三つの村よりー」展が、吉祥寺の「ギャラリー会 吉祥寺」で開催されるそうです。エジプトの村人が製作した刺繍絵、タペストリー、陶器が展示されます。こちらも、是非お出掛け下さい。
これまで寄木細工を狭い世界でしか捉えていませんでしたが、今回の展示会で、寄木が世界と繋がっているのだと実感できました。寄木細工は、まさしく「人類共通の寄木」というコンセプトであると言えると思います。これからも、箱根寄木細工が世界に発信し、世界とコラボする寄木としてデザインされることを願っています。(深野 彰 記)

2015/11/06 12:24 | なりわい

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