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2016年03月04日(金)

小田原文学館「北原白秋―詩人の見た風景」

「小田原文学館」は、西海子(さいかち)小路にある田中光顕伯爵の別邸であった瀟洒な洋館です。この小田原文学館を会場に、1月23日~3月16日までの期間で『北原白秋―詩人の見た風景』展が開催されています。昨年、生誕130年を迎えた詩人・童謡作家として知られる北原白秋の「生誕130年記念交流特別展」です。「交流」とあるのは、白秋は九州福岡県柳川市に生まれ、東京、三崎、小田原と生涯に30回も転居した関係で、白秋にゆかりのある柳川、三浦、小田原の3市が交流する一環として行われているからです。
■白秋と小田原■
会場の「小田原文学館」会場の「小田原文学館」
白秋は、大正7年(1918年)2月に東京から小田原へ転居しました。妻・章子の病気療養のためとされています。「御花畑」というところに家を借りて住みました。その頃の白秋は、赤貧洗うが如しの生活でした。
半年後の10月には、天神山にある「伝肇寺(でんじょうじ)」境内の一室を借りて移り住みました。
この年7月に白秋は鈴木三重吉の児童雑誌「赤い鳥」創刊に協力して童謡面を担当することになり、白秋の大きな飛躍となるのです。大正8年夏には、寺の東側に初めて自宅を建てました。そして、かって訪れた小笠原島の風情のある茅葺・藁壁の「木兎(みみづく)の家」を併設しました。翌9年には二階建ての洋館「白秋山荘」も建てました。ようやく白秋に日の当たる日を迎えたのですが、一方で、章子夫人と谷崎潤一郎とのいわゆる「小田原事件」がおきて、白秋は大きな試練を乗り越えねばなりませんでした。しかし、大正10年4月には菊子と結婚し、白秋にも落ち着いた生活が始まりました。翌年には長男・隆太郎も誕生し、子育ての中で「揺籃のうた」などを作詞するようになります。
白秋は8年間を小田原で過しましたが、白秋にとっての小田原時代はもっとも充実した創作の期間でした。白秋が生涯に創作した1200編もの童謡作品のうち、半数は小田原時代につくられたほどです。「雨」、「赤い鳥小鳥」、「あわて床屋」、「砂山」、「からたちの花」、「かやの木山の」、「ペチカ」、「待ちぼうけ」、「雨ふり」、「この道」など、誰でもが子どもの頃に、一度は口ずさんだ歌が作詞されました。
白秋は小田原の地を気に入って生涯住みたいと思っていたようですが、関東大震災で住居が半壊し、大正15年に東京へ転居してしまいました。
 
■「北原白秋」展■
 
「北原白秋」展の会場内風景「北原白秋」展の会場内風景
 会場には、白秋の生涯がたどれるように、幼い頃からの写真や手紙、出版された本などが展示されています。白秋が、同時代の多くの詩人、文学者と交流を深めていました。白秋が旅した場所を示した地図も展示されています。それを見て驚くことは、白秋が北は樺太・北海道、西は朝鮮、南は小笠原や台湾まで全国各地を詩人仲間と旅行していることです。これらの旅で、白秋の豊かな感性が刺激され、優れた作詩につながっているのだろうと思われました。

2階には、3市で開催された「白秋サミット」の様子を伝える展示もされています。熱心に見学されていたご夫婦は、東京からわざわざお見えになったそうです。
■白秋の童謡と散歩道■
 
「白秋童謡館」「白秋童謡館」
小田原文学館の敷地内に、和風建築の「白秋童謡館」があります。ここには、白秋の使っていた書棚や遺品、童謡の本などが常設展示されています。一室に、石丸麗子氏から寄贈された、夫君が生前収集された初版本などの貴重な白秋関連資料が展示されています。「みみづくの家」の模型も展示されています。北原白秋展を訪れた際には、是非、童謡館へもお寄りください。



 
白秋の自宅のあった「伝肇寺」白秋の自宅のあった「伝肇寺」
白秋の住んだ伝肇寺には、自宅などは残っていませんが、境内には歌碑が建立されています。また、伝肇寺は「みみづく寺」と呼ばれて親しまれており、寺が経営する幼稚園は「みみづく幼稚園」です。可愛らしい名前の幼稚園ですね。もしお時間があれば、文学館から歩いて10分ほどの所にありますので、白秋が住んだ町を散歩するのも楽しいでしょう。

散歩といえば、小田原時代の白秋は、よく散歩に出かけて作詩の想を描いていたそうです。みみづくの家から坂道を上っていくと、北条時代の小田原城総構の「小峯の大堀切」の遺構に出ます。そこから尾根に向かって歩いていく道が、「からたちの花の小径」と名付けられています。水之尾道と呼ばれる尾根伝いの道で、白秋は「からたちの花」を構想したそうです。この散歩道から見える小田原市街と相模湾の風景は、まさに絶景です。白秋ならずとも、その風景を愛でて、詩の一つも詠いたくなること請け合いでしょう。
白秋展を参観して、その足で「伝肇寺」から「からたちの花の小径」をゆっくりと春の日に散策するのも、小田原での心豊かな思い出となることでしょう。白秋特別展の最終日は、3月16日です。まだ期間がありますので、是非、小田原文学館の「北原白秋」展へお出掛け下さい。(深野 彰 記)
 

2016/03/04 10:57 | 芸術

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