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2017年07月21日(金)

小田原城甲冑展『小田原城 武者揃え ~戦の時代の装い~』

昨年5月にリニューアルした小田原城天守閣。

7月5日には早くも入城者100万人を超えました。

地元ひいきで言うわけではありませんが、一年で100万人というのは凄いことだと思います。


それを記念して、過去の特別展で最も人気の高かった武具・甲冑に焦点を当てたのが、今回の小田原城甲冑展『小田原城 武者揃え ~戦の時代の装い~』です。

一般社団法人日本甲冑武具研究保存会協力のもと、会員所蔵品など貴重な資料の数々が展示されています。

 

早速見てきましたが、時代資料的にも工芸品としても見応えあるものでした。なかには、戦国時代の小田原や東国の武者が身につけていた武具はこうしたスタイルだったのかと想起させる資料も幾つかあります。

 

許可を得て撮影してきましたので、今レポでは展示の一部を紹介したいと思います。

■展示構成

兜、甲冑、刀剣・拵(こしらえ)、馬具・その他の4部構成。おもに戦国時代から江戸時代前期に製作された甲冑・武具等40点以上を展示。

 

タイトル「~戦の時代の装い~」とあるように、実戦期の中世軍装の一端を垣間見ることができます。

 

(天守4階第一会場の観覧順路は、甲冑→馬具・その他→刀剣→兜となっています。このブログでもその順で書いています)


【甲冑】

 

「本小札色々威腹巻」

(ほんこざねいろいろおどしはらまき)

小札(こざね)とは、甲冑を構成する皮や鉄の小片の総称。

小札の形状は時代や目的に合わせて色々あり、本小札は“本式の小札”で製作したことを主張しています。

威し(おどし)は、緒通しの意味で、小札板を上下に繋ぎ合わせること。綴じ方の手法や、材質(組紐、革紐、織物など)で様々なものがあります。

腹巻は中世の甲冑の形式の一つで、室町時代後半に最も流行しました。小札板(複数の小札を重ね綴じ、また漆で固め、横板状にしたもの)で胴身を腹から丸く包み、背で引き合わせる形になっています。

 

室町時代末期の製作と考えられる腹巻で、大変保存状態の良いものだそうです。経年退色していますが、白・紅・紫糸を段々に使った「色々威」で、製作当時の色彩が偲ばれます。


対照的に思えたのがこちら。

 

「練革黒漆塗紺糸素懸威最上腹巻」

(ねりかわくろうるしぬりこんいとすがけおどしもがみはらまき)

最上胴や最上腹巻というのは胴鎧の形式の一つで、胴の四隅を蝶番で繋いでいるもの。

 

練革黒漆塗の板物を紺の木綿糸で素懸に威した、簡素な革腹巻。室町時代後期頃の作。

 

下級武士や足軽が用いた実用本位の甲冑です。

それだけに現存する資料が少ない貴重品とのこと。

同時代の地位や役割の異なる甲冑として、とても興味深く思いました。

 

そのほか6領の甲冑、腹当や臑当が展示されています。

また、5領の甲冑が第二会場(常盤木門SAMURAI館)に展示されています。


【馬具・その他】

 

軍陣鞍という、合戦用の鞍が3具展示。

軍配、母衣の展示などもあります。

 

「黒漆塗鳳凰文螺鈿軍陣鞍」

(くろうるしぬりほうおうもんらでんぐんじんくら)

軍陣鞍とは甲冑を着た武士が合戦に用いた鞍。

前輪・後輪が高いなど、馬上で揺れ動かず、戦働きができるような工夫がされています。

 

この軍陣鞍は特に前輪・後輪が高く、鞍壺が深く作られています。

螺鈿は前輪と後輪に飛翔する鳳凰文を左右に配し、輪の先端には微塵の青貝で装飾。室町時代前期の作。

 

そのほかの軍陣鞍のうち一具は、伊勢駿河守貞雅作の鞍と鐙(あぶみ)です。

後北条氏に興味を持つ方には、関心を起こされるのではないでしょうか。


【刀剣・拵(こしらえ)】

 

「金銅装楓紋透呑口式腰刀拵」

(こんどうそうかえでもんすかしのみくちしきこしがたなこしらえ)

呑口式というのは、鐔(つば)を装着せず、鞘(さや)の口金を柄の縁金に挿入して重ね合わせて固定する拵の一種。

ハバキ(金へんに祖。刀区を保護し、刀身を鞘内に固定するための金具)を用いない、鎌倉時代までの様式で希少なものだそうです。

 

『蒙古襲来絵詞』のような絵画史料には見られますが、伝世品は珍しいのではないでしょうか。とても薄い造りなのに驚きました。

 

そのほか小田原合戦(天正18年・1590年)頃の製作と推定される打刀拵(うちがたなこしらえ)や、「かぶき者」に流行したという長柄の大太刀(野太刀や長巻とも)の拵えと刀身、戦国時代の実戦用の打柄鑓拵(うちえやりこしらえ)など、時代を反映した遺品10点以上が展示されています。


【兜】

鎌倉時代から安土桃山時代にかけての兜や兜鉢が展示されています。

 

小田原周辺で製作されたとされる「小田原鉢」も展示されていました。

「鉄黒漆塗三十二間総覆輪筋兜」

(てつくろうるしぬりさんじゅうにけんそうふくりんすじかぶと)

兜で「~間」というのは、兜鉢(かぶとばち)を構成する鉄板(矧ぎ板=はぎいた)の枚数。

筋兜というのは、矧ぎ板の接合する鋲(びょう)の頭をすりつぶして、板の縁を強調して筋立てた形式のもの。中近世の主流スタイルでした。

覆輪(ふくりん)とは、金具の外周を縁取っている金物のことです。
 

この兜は、室町時代末期の兜鉢に桃山時代の吹返(ふきかえし)が付けられています。

 

吹返というのは正面から見て耳のように見える部分で、シコロ(革へんに毎。兜の側面から後部にかけて威し下げられた小札板こと)の左右両端を正面に向けて返した防具の一つです。

 

 

展示を見ていますと、このように後世に仕立て直されたものが多い事に気づかされます。

由緒あるものや高価なものをリフォームし、大切に使い続けていたのでしょうか。


第二会場の常盤木門SAMURAI館には、5領の甲冑が展示されています。

江戸時代にかけての具足が並べられ、豪華絢爛な眺でした。

 

写真右奥に見える小田原大久保家ゆかりの「金小札紫糸威二枚胴童具足」(きんこざねむらさきいとおどしにまいどうわらべぐそく)は、6年ぶりの展示。

天守2階にある記念撮影用の顔抜き看板は、この甲冑がモデルになっているそうです。


ご紹介したい甲冑・武具は他にもあって迷いました。
ぜひ足を運んで、実物をご覧下さい!
私も、もう一度じっくり見に行くつもりです。(そうこ 記)
 

参考:『小田原城 武者揃え ~戦の時代の装い~』図録、『北条氏年表』(高志書院)、『ススメ!小田原北条氏』図録(馬の博物館)、『図説・戦国の実戦兜』(学研)、『北条史料集』(人物往来社)
 

■小田原城天守閣特別展「小田原城 武者揃え ~戦の時代の装い~」開催概要
会期:平成29年9月24日(日)まで ※会期中無休
開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
     天守閣のみ7~8月の土日祝日、8月14日(月)~18日(金)は午後7時まで(入館は午後6時30分まで)
入館料:
 天守閣 単館券:一般500円、小・中学生200円
 常盤木門SAMURAI館 単館券:一般200円、小・中学生60円
 天守閣・常盤木門SAMURAI館 共通券:一般600円、小・中学生220円
  ※団体割引あり(30名以上) 
 
展示は、小田原城天守閣4階の第一会場と常盤木門SAMURAI館の第二会場で行われています。

2017/07/21 09:54 | 歴史

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