娘・お鶴を思いやる母・お弓「相模人形芝居大会」の演目
最初の演目は、平塚市四之宮地区の「前鳥座(さきとりざ)」による「傾城阿波の鳴門(けいせいあわのなると) 巡礼歌(じゅんれいうた)の段」です。阿波徳島城主の玉木家に伝わる宝刀が盗まれてしまいます。家老の家来・十郎兵衛とお弓夫婦は大阪で盗賊の仲間に入って刀を探します。お弓が留守番をしていると巡礼の娘がやって来きます。阿波から来たという娘の身上話を聞くと、お弓は故郷に残してきた娘のお鶴だと分かります。「ととさんの名は十郎兵衛、かかさんはお弓と申します」のお鶴の台詞は有名です。盗賊の罪が娘に及ぶことを恐れたお弓は、娘を追い返して泣き崩れます。しかし、あきらめきれずに思い直したお弓は、お鶴の後を追いかけます。この物語の背景は、藩主玉木家の若殿が高尾という傾城に溺れていることをよいことに、悪臣がお家乗っ取りを図る企てです。ですから、題に「傾城」が入っています。一家の不幸の遠因が若殿のご乱行があると知っている江戸時代の観客たちは、理不尽な世の中で繰り広げられる悲劇に、より一層涙したことでしょう。