展覧会のチラシ11月22日(水)から26日(日)まで、小田原市民会館2階展示室にて、「よみがえる市民会館の絵画たち」と題した展覧会が開催されます。今回の文化レポートは、その展覧会の事前紹介です。
小田原市市民提案型協働事業
小田原市には「小田原市市民提案型協働事業」と呼ばれる、市民団体が事業提案し、小田原市と協働で事業を実施する制度があります。これは、「市民活動団体の新しい発想や柔軟性、専門性等を十分に生かした提案を募集し、提案団体と市が対等な立場で適切な役割分担のもと、双方の責任において協働して事業に取り組むことで相乗効果を発揮し、地域社会の課題解決や新たな市民サービスを創出していくことを目的としています。」と、市ではその狙いをホームページに示しています。具体的には、市民団体が自ら企画した事業の負担金の申請を行い、市の審査に通ると、その事業を市と役割分担を行いながら実施していきます。
「おだわらミュージアムプロジェクト(略称:OMP)」は、「小田原市に美術館を!」の目的で2011年3月に発足し、これまで美術展開催や他市のアート活動調査などの活動に取り組んできました。平成27年度の小田原市文化部文化政策課主催のワークショップ「小田原の文化資源を発掘する◆小田原市民会館のストーリーを紡ぐ」に参加したメンバーが、ゲストの西相美術協会前会長の齊藤四郎氏から小田原絵画の歴史を伺いました。そして、会場であった小田原市民会館にも数多くの小田原ゆかりの作家による絵画が掲示されていることに改めて気が付いたのです。
ところが、それらの絵画には、汚れや一部破損やひび割れが数多く見られ、更に、絵画のキャプション(タイトルや作家名)もない作品や作家の履歴が不明になりつつあることも分りました。OMPで、それらの劣化を何とかせねばならないと話し合いました。一方で、OMPとしてもアートツアーなどのイベント活動だけでなく日常的な活動に取り組みたいとの意向もあり、平成29年度事業として「小田原市民会館所蔵美術品の補修・保護事業ー小田原市民会館の美術品を守るー」を申請しました。事業内容として、「(1)市民会館所蔵絵画の洗浄と吊紐等補修、(2)絵画・作家履歴調査して基本情報の整備、(3)市民会館所蔵絵画の基本台帳の作成」を提案しました。審査の結果、OMPの協働事業提案は採用されることになり、作業が始まったのです。
展示絵画作品の紹介
小田原の美術界史は、昭和6年(1931年)の「相州美術会」から始まると云ってもよいでしょう。戦後は「西相美術協会」と名前を変えて、これまで80回を超える「西相美術展(西相展)」を積み重ねてきました。小田原市民会館所蔵の絵画も、この「西相展」及び「小田原市美術展(市展)」に出品された作品が中心となっています。というのも、西相展と市展で市長賞など最優秀賞を受賞した作品は、小田原市が買い上げる制度があったからです。この制度は昭和34年(1959年)から始まりましたが、残念ながら平成4年(1992年)に廃止となりました。この買い上げ制度によって小田原市ゆかりの作家の秀作が小田原市所蔵となり、今でも公共施設に掲示されて市民の目を楽しませてくれているのです。
ここで、展覧会に出品される作品のうち、チラシに載せてある作品を簡単に紹介しましょう。
「よみがえる市民会館の絵画たち」展には、全17点が出品されます。紹介した4点以外も素晴らしい作品ばかりです。市民会館の薄暗い廊下や、普段は市民が入る機会がない部屋に掲示されていた作品も多く、恐らくご覧になられた方々は、「小田原市民会館に、このような素晴らしい絵画があったのか!」と驚かれることでしょう。
これらの絵画は、小田原ゆかりの画家たちが遺した貴重な文化資産と云えましょう。市民会館所蔵絵画の事業を推進していて、今年3月に開催された文化振興シンポジウムで講師の平田オリザ氏が語られた、「芸術は、コミュニティの形成や維持の社会包摂を担うもの。」と「今、地域の自立を阻むものは、『文化の自己決定能力』を失うことであり、『一人一人が文化資本を身に付けること』こそ、これからの地域で最も重要なことだ」との言葉が思い起こされました。本展覧会は、戦前から現在までの80年間の長きに亘り、美術を通して小田原文化を育んできた画家たちの想いが感じられる展覧会であると思います。
展覧会会場には、協働事業で作成した「美術品管理台帳」も展示する予定です。4日間の短い開催期間ですが、是非ともご来場下さい。(深野 彰 記)