小田原市

市長の日記

小豆島・みなべ町訪問記(後編)

みなべ町編

訪問の趣旨

 

 和歌山県みなべ町は、梅干の最高級品種である「南高」を中心に、国内の梅生産量の13%ほどを占める、我が国最大の梅産地です。梅の栽培面積は約600ha、出荷量は年間25,600t。栽培農家数は約1,400戸、平均の栽培面積が1.5ha。専業農家も多く、30代や40代といった若手の経営者も多数おり、大規模な農家では年収が3000万円を超えています。また、梅に関連した町の農業・商工業の出荷額は年間300億円近くに達しており、生産のみならず、加工・流通・各種商品化と販売の拠点が、このみなべ町に集積しています。

 片や、小田原における梅の生産状況は、栽培面積100haほど、梅の出荷量は年間約900t。栽培農家は450ほどあるものの、そのほとんどが兼業であり、多くは定年後に本格的に農園管理を行うケースで、年齢層は60代後半が中心。丁寧な作業を必要とする十郎梅などの栽培や収穫・加工には問題がないですが、地域の産業としての未来を考えると、後継世代の確保、そのために必要となる事業性の強化に向けては、多くの課題を抱えています。

 小田原市は、「全国梅サミット」という、梅の生産や梅を活かした観光振興に取り組む全国の市町から成る自治体の協議会組織に加盟しており、毎年行われる首長サミットなどを通じて、みなべ町の取り組みを学んできました。「うめ課」という専門組織を中心に、町を挙げて梅に取り組んでいるみなべ町の姿を、ぜひこの目で拝見したいと、かねがね考えていたところです。みなべ町は、どのような営農形態と流通・出荷システムによって、梅産業をそこまでの状態に成立せしめているのか?小田原が見習うとすれば、どのようなことが取り組み可能なのか?そんな問題意識をもって、訪問をさせて頂きました。


町の取り組み

 

 6月28日、みなべ町うめ課の林課長さんにお迎え頂き、町の庁舎へ。みなべ町では、梅の収穫と出荷のピークである6月にかからぬよう、町議会定例会は5月に済ませてしまうとのこと。この時期は、町は梅一色となっています。

 まずは小谷芳正町長をお訪ねしました。町長は、みなべ町の職員として務めあげられた後に町長に就任された方で、町の行政を知り抜いている実務派。改めて、梅の安定生産と高付加価値化への取り組み、町内の様々な担い手の方々の様子などを伺った上で、規模は違えども同じ生産地として、今後も梅の市場拡大に向けて連携していくことを確かめ合いました。

 梅の市場については、青梅を買って梅酒に漬けたり自家製の梅干を作ったりする家庭が減少傾向にあること、梅干を日常的に食する習慣が徐々に減ってきていることなど、全体としては市場の頭打ちと、取引価格の伸び悩みという現実があります。そんな中、みなべ町では、小豆島でのオリーブと同じように、健康に対する梅の効能をここ数年来調査研究しており、大学や研究機関と協働で、梅の効能についてかなり明らかにしてこられ、特許なども取得されておられます。また、小豆島町にも先んじて、梅製品を食べることによる健康改善効果の確認に向け、モニター家庭を募り、検診のデータなども集めておられます。すなわち、健康増進と言う機能性を客観化することで、新たな市場を作り出していこうという考えです。梅にせよ、オリーブにせよ、健康という切り口は今後の農業高付加価値化において、実に重要な着眼といえましょう。


 

 引き続き、産業課長の硲(はざま)さんから、耕作放棄の現状などについて伺いました。みなべ町では、梅が重要な経営品目であり、事業性も確立されていることから、専業農家の中では耕作面積の拡大が行われている一方で、比較的小面積栽培の兼業農家においては、小田原と同じように、耕作が続けられなくなってきつつあります。林課長にしても、硲課長にしても、「これまで耕作放棄地が出るとは考えられなかったが、みなべでもいよいよ出始めた」といったお話でした。小田原市には、耕作放棄地が約170haほどもあり、ある意味常態化してしまっていますが、みなべ町では最近出始めたところであり、全体でも10ha余り。小田原とは全く状況が違いますが、それでも町の担当者の皆さんは危機感を持ち、その対策を丁寧に講じようとされていました。

 ちなみに、小田原市長がみなべ町へ視察にきたということが、地元メディアにも注目され、町長と私の会談の様子などに記者の取材が入り、翌日以降の3紙に大きく取り上げられました。このことは、「梅」が如何に地域の産業にとって大きな位置を占めているかを示しているように思います。


農園の様子

 

 庁舎でのレクチャーを終え、早速町内の各地へ。住宅街を抜け、ぐるりを取り囲む丘陵部が近づいてくると、平野部の農地は勿論ですが、山の斜面のいたるところに、梅園がビッシリと設けられている様子が目に飛び込んできました。小田原のような緩斜面だけでなく、かなりの急傾斜の山林も梅林として拓かれています。

 そして、梅林の林床には、青いネットが一面に張られています。これは何をするものかというと、梅は適度に熟してくると自然に落果しますが、このネットで梅の落果を受け止め、梅園の斜度をうまく使って、梅が梅園の一番下まで転がってくるようになっているのです!実際、道路わきの斜面の裾で、ネットにたまったたくさんの梅を、農家の方々が掬い取ってコンテナに移す作業が行われていました。斜度のない平地の畑では、タモ網のようなもので落ちている梅をまとめて拾いながらの収穫。小田原で見慣れた、梅の木から一粒ずつ手でもいでいくという作業がなく、自然に落ちたものを一気に拾い集めるので、収穫の効率は格段に高くなります。一本ずつの木に脚立をかけて手でもぐ、と言う作業が必要ないため、かなりの斜度の斜面でも梅の栽培と収穫ができる、ということです。


  

 この作業を可能にしているのは、梅の品種の違いが大きいのです。小田原が現在取り組んでいる梅の高付加価値化に向け、主力として推奨しているのが「十郎」。これは、大玉で肉厚、肉も柔らかく、果皮も薄いので、梅干としては高い品質となるのですが、傷つきやすいので、丁寧な取り扱い、すなわち手もぎが欠かせません。したがって、栽培面積には自ずと限界が出てしまいます。一方、みなべ町が主産地で全国の梅干ブランドのトップを確立している「南高」は、大玉で肉厚ですが、果皮もある程度厚めであり、傷がつきにくいと言われています。したがって、ネット上に落果させた上で収穫をしても、大きな問題にはならず、大面積での栽培が可能になるということです。

 みなべ町では、農家の高い拡大意欲を受け、これまでにも町内の各地に梅の圃場を整備してきた経緯があります、山間地の谷戸を埋め立て、1か所で30haとか50haとか、ともかく広大な圃場を幾つも造成、そこに多くの梅農家が梅園を設け、規模拡大を図っています。これら広大な梅園は、梅の花が咲く時期にはたいへんな壮観になります。


若き梅専業農家

 

 お訪ねした日も、梅農家の皆さんは収穫作業に大わらわで、家族以外の働き手も雇って、大勢で収穫し、果樹園地帯ではコンテナを満載した軽トラがガンガン出荷作業に走り回っていました。収穫作業はだいたい午前中に終わらせて、午後は各農家での作業が待っているのです。

 午後は、その農家での作業を見るため、有力な若手栽培農家の森川さんのお宅へ。みなべ町の梅栽培農家には、一様に倉庫と加工設備、干場がセットで揃っています。ここに、みなべ町の梅産業として安定性と事業性を生み出す仕組みがあるのです。


 

 収穫された梅は、農家に持ち帰られ、まず洗浄と大きさ別に分ける機械に乗せられます。その過程で、ひどく傷んだ実や、枝や葉などのゴミを取り除きます。Mから4Lくらいまでの大きさに自動的に選別され大きなカゴに入れられた梅は、そのままフォークリフトで奥の倉庫へ。ここで、梅は大きな容器で塩漬けにされ、一定期間ののちに梅干用の干場(大きなハウス)に天日干しされ、白干梅に加工され、樽貯蔵されます。つまり、みなべ町の梅農家は、収穫した梅をそのまま出荷するのではなく、農家で梅干までに加工してしまい、一定程度の貯蔵ができる状態にしたうえで、個別に梅干加工事業者などと取引をしているのです。生梅というのは、どうしても市況に左右されたり、農家の出荷が一時におきると根が崩れたりしますが、梅干に加工して手元にストックし、時期を見て出荷することで、経営の安定と高付加価値化が図れるという仕組み。小田原でも勿論、梅研究会の農家さんたちはご自宅で小さな工房を持ち、様々に加工して根強いファンの方たちに直売をされていますが、数十トンという単位の梅を加工処理するという点で、みなべ町の農家の皆さんは、事業体としての規模と能力が格段に違います。


 

 お訪ねした森川さんは、元は農協の職員だったようですが、実家の梅園経営を継承。今は、4haほどの梅園を主力に、いくつかの生鮮野菜なども作りながら、かなりの年商を上げられています。もちろん、私がお訪ねした時もそうですが、梅の収穫と漬け込みのシーズンは目の回るような忙しさで、大粒の汗をかきながら、奥様やご家族と一緒に懸命の作業をされていました。まだ30代後半の、働き盛り。洗浄・選別機、フォークリフト、漬け込み用の倉庫、干場となる大型ハウス、最近設置した梅酒用の加工施設など、相当の借り入れも起こしておられるそうですが、それでもしっかりした事業基盤を築かれ、希望をもって仕事に没頭されているお姿が、素晴らしいと思いました。森川さんのような、数haの梅林を手掛ける若手農家も大勢いられるようで、良い意味での競争相手でもあり、悩みを分かち合う大切な同志でもあるとのこと。みなべ町には、今のところ「後継者問題」というのは存在していないのだと、確認ができました。


青梅の出荷

 

 農家から出荷されるのは、白干し梅が8割を越えますが、全体の2割程度は、自家製で梅酒や梅干に漬込むための梅、いわゆる青梅で出荷が行われています。これは時機を選ぶものですから、6月中~下旬が出荷のピーク。小田原では、成田の選果場に青梅がコンテナで持ち込まれ、選果場で一斉にふるいにかけて大きさを選別し、JAとして流通経路に乗せていくのが主流ですが、みなべ町では農家においてサイズごとに選別、箱詰めし、集積所であるJAの各支店に持ち込まれます。持ち込まれた箱から抜き打ちで検査し、品質を確認。統一のブランド「みなべの南高梅」に傷を付けぬよう、厳しい品質管理が行われています。


研究機関との連携

 

 みなべ町の梅産業の強みは、梅の栽培技術や品種改良などを専門に研究し、実際の農業経営や加工事業に貴重なデータや指導を与えてくれる、公立の研究機関が存在していることです。一つは、和歌山県の果樹試験場うめ研究所。お訪ねをすると、広大な敷地に栽培条件の検証に用いる大型のハウスが数棟建てられており、土質、気温、湿度などの条件を細かく設定しながら、適切な栽培や防除の技術を研究しています。それらの成果は、町の産業政策や、農家の栽培方法に直接活かされており、ブランド化は科学技術によっても支えられています。


多彩な加工・販売事業者

 みなべ町で多くの梅専業農家が成立をしているのは、生産された梅がきちんと出荷でき、一定の収益を上げることができるからに他なりません。それを支えているのは、多彩な梅関連の加工販売事業者です。梅干、梅酒はもとより、実に様々な梅関連商品がここで製造され、直販施設はもとより、昨今では通販やネット販売が急速に伸びており、私たちの日常の中でも梅関連製品のたくさんの広告を目にするようになりました。

 

 加工業者は、農家が白干梅に加工した梅を樽で仕入れ、それを自社工場で様々な加工品へと手を加えています。町内で最も大きな事業規模をもつ、株式会社ウメタをお訪ねし、実際の加工施設と作業の様子を拝見することができました。オーソドックスな梅干のみならず、最近売れ筋のハチミツ漬など様々な味に仕込む漬込み工程、大勢の従業員の皆さんが整然と商品をパッキングする行程、ネット注文などに応じ全国各地に配送する行程、様々な調味を研究する工房、工場に併設された直売所、来客用に梅の栽培や加工工程を説明するギャラリーなどが一体的に整備されています。そして、主要な製造工程は、来訪者が見学できるよう、ガラス張りの見学コースも設置されています。

 社長の泰地祥夫さん、弟で工場長の泰地伸明さんに、経営の状況や、今後力を入れていく部門などについて、いろいろとお話を伺うことができました。梅関連商品の新たなマーケット、消費スタイルを提案しつつ、主力の梅干はしっかりと品質確保を行い、販路は通販及びネットで拡大をしていくというのが基本。新しく発行する予定のカタログを見せて頂きながら、果敢に市場創造へのチャレンジをされている様子がよくわかりました。

 このような、梅に特化した意欲的な事業者が、生産者を支え、梅のマーケットを作り続けているからこそ、みなべの梅産業は成長を続けているのだと思います。

 

 まる一日かけて、みなべ町の梅の栽培から加工・販売に係わる、様々な取り組みをつぶさに拝見し、その産業としての基盤の磐石さと広がりに驚嘆すると共に、小田原の今後に向けて様々な宿題をどっさりと頂いた思いです。現在は、高齢化が進んでいるとはいえ技術と意欲の高い生産者が多数おられるから大丈夫ですが、あと10年ほどすれば、生産者の年齢構造の問題が一気に顕在化し、放任園が急増する可能性が否定できません。後継者をどう育てるか、そのための梅栽培の事業性を何によって確保していくのか、高付加価値化と作付け拡大をどうバランスさせられるかなど、梅産地としてどちらの方向に舵を切っていくのか、十分に検討をする必要があると感じました。

 市内で熱心に栽培に取り組んでおられる生産者の皆さん、小田原にも多数営業をされている加工業者の皆さんと、このあたりは今後じっくりと意見交換し、産地としての方向性を見定めていきたいと思います。


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