小田原市

市長の日記

小豆島・みなべ町訪問記(前編)

小豆島編

訪問に至る経緯:オリーブへの着眼

 

 まずは、オリーブ。100年ほど前に日本での栽培が始まり、国内3か所で行われた導入の結果、産地として成功したのは小豆島です。年間を通じて温暖で、適度の降雨があり、日照に恵まれ、水はけのよい土地で実るオリーブは、食材の魅力はさることながら、健康への効能、美容ニーズなどもあって、市場が成長しています。「美味しいミカンができるところなら、オリーブもよく実る」とも言われていますが、小田原辺りも適地であると考えられます。

 加えて、隣町の二宮町での動きがあります。二宮には、すでに10年ほど前からオリーブ栽培に取り組んでいる農家がおられ、同町ではその動きを支援しようと、オリーブの産地化を目指しています。二宮町の坂本町長とも何度か意見交換を行い、また実際に栽培農家の園地も訪問させて頂く中で、この地でオリーブが栽培できることを確信しました。産地化をするならば、二宮だけでなく、小田原も含めた県西部全体に動きを拡げていくことが必要です。


 さらに、小田原が現在進めている、農林水産物を素材とした高付加価値化、いわゆる「6次産業化」に向けた動きとも、このオリーブは相性が良いと考えられます。例えば、魚とオリーブはたいへん相性が良いですが、早川港に整備されつつある水産加工施設などで、豊富に水揚げされる鮮魚の加工に取り組む予定であり、商品化やレシピのバリエーションが広がるでしょう。もともと、蒲鉾とも相性が良く、地物のオイルがあれば、蒲鉾の消費シーンの拡大につながりそうです。また、一夜城ヨロイヅカファームとその周辺の農家の皆さんで取り組まれている、地場農産物を活かしたスイーツやレシピづくりなどの動きとも、大いに連動できるはずです。

 もうひとつ、放棄地が増加している農業地帯の悩みは、鳥獣害です。サルやイノシシ、ヒヨドリなどによる食害が懸念されるところですが、オリーブの果実はそのまま食べればたいへん苦く、鳥獣はこれを食べることはありません。これは大きなポイントです。

 以上のような観点から、小田原を含めた県西地域でのオリーブ栽培と産業化への可能性について、その感触を探るため、国内最大の産地である小豆島をお訪ねすることとなりました。

 

 6月26日、小田原市議会6月定例会の最終日。議会終了後、夕方の新幹線で姫路へ。ここで宿をとり、翌27日の朝一番のフェリーで、小豆島東岸の福田港へ。午前中ご案内を頂く、小豆島町・オリーブ課の城(しろ)課長さんが、車で迎えに来てくれました。20分ほどかけて、小豆島町の庁舎へ。

 まず、塩田・小豆島町長さんと面談。もともと小豆島のご出身、京大法学部から当時の厚生省へ入庁。長年の官僚としての勤務を経て、小豆島町長に就任。今は4年目に入り、郷土・小豆島の活性化に精力的に取り組んでおられます。


行政の取り組み:小豆島町

 塩田町長は、小豆島が誇る資源であるオリーブを徹底して育て、オリーブが備えているあらゆる価値を具体化すべく、矢継ぎ早に政策を繰り出しておられます。ここ数年来の健康ブームと、地域活性化に向けた6次産業化の流れの中で、九州などが本格的にオリーブ栽培に乗り出していることを受け、国内の唯一のオリーブ産地に甘んじることなく、質的な優位を確立するための戦略として、「小豆島オリーブ・トップワンプロジェクト」(オンリーワンから、トップワンへ)を23年度から開始。今年で3年目に入っています。

 小豆島のオリーブ産業は、栽培面積約120ha、収穫量約120t、売上高は約60億円。昭和40年代に輸入自由化によって国内生産が激減した時期がありましたが、平成に入ってからの健康ブームや、行政による振興策、構造改革特区の導入による株式会社等の農業参入などで面積は拡大。さらに、ネット販売など高付加価値化の流れの中で、産業としての成長が続いています。現在、島全体には、約6万本のオリーブの木が植えられているそうです。

 塩田町長が熱心に取り組まれているのは、オリーブによる島の産業振興だけでなく、町の観光振興、さらには町民の健康づくり、医療・介護費の削減にまでつなげようとする、包括的な事業展開。食育や家庭料理のメニュー開発から、オリーブを継続的に食べることによる健康改善効果の測定、そのためのモニター家庭募集と血液検査への補助など、徹底しています。ちなみに、オリーブオイルは、血中の悪玉コレステロール抑制や抗酸化作用など、生活習慣病の予防や心臓疾患などにも効果があるとされており、このあたりを大学研究機関などと連携して検証していく予定とのことです。

 もちろん、その前提となる生産量の拡大と、担い手である生産者や事業者の経営改善に向け、栽培技術の研究、質の高い商品化技術の実現や製造コストの圧縮などに向けた研究にもしっかり取り組んでおられ、産業として他産地の追随を許さぬという強い意気込みが感じられました。ちなみに、町としては、新たに植えるオリーブの苗木購入と、搾油機の導入に対し、補助を行っておられます。

 小田原を含めた県西地域で、今後研究を進めていく上で、ぜひともご指導を頂きたいとお願いし、今後の何らかの連携に向けた感触を得ることができました。

 

 その後、城課長のご案内で、小豆島オリーブ公園へ向かいました。島内は、園地、街路樹、生け垣など至る所にオリーブが植えられ、独特の景観を作り出しています。

 公園は、瀬戸内海を見下ろす小高い丘の上にあり、オリーブの原産に近いギリシャの風景を模した白い風車とオリーブ園の景色が、とても印象的です。園内には、様々な種類のオリーブが一面に植えられているほか、ハーブ園や、ワークショップができる施設、搾油施設、売店やレストラン、研修施設などが配置されています。町が指定管理者に運営を委託し、年間35万人が訪れる観光スポットにもなっています。同時に、技術指導員数名を擁しており、園内だけでなく、町内のオリーブ栽培や園地管理へのサポートなども行っている、重要な拠点でもあります。私が滞在中も、大型バスでの来客が絶えず、売店では化粧品コーナーにご婦人方が列を作っておりました。


 

 スタッフの方に、園内のオリーブ園をご案内頂きました。9月以降の収穫期に向かう現在、それぞれのオリーブの木には小指の先ほどの小さな実がビッシリと実っていました。オリーブの収穫後の作業としては、そのまま塩漬けにする「新漬け(しんづけ)」用のものと、直ちに搾油するオイル用のものに分かれます。オイルを取るには鮮度が何より重要で、収穫後1時間以内に搾油しなければいけないとのこと。園地と搾油所は、必ず一対になっている必要があるそうです。

 園内には、昭和天皇が御手播きしたオリーブが育っており、海を見下ろす丘の上に大きく成長し、豊かに茂っていました。樹齢と収穫量の関係を伺いましたが、新しい枝を更新していけば長い期間にわたって実り続けるそうです。


民間事業者の取り組み:井上誠耕園

 

 午後は、小豆島でオリーブを生産すると共に、様々な商品化を手掛けておられる、井上誠耕園さんへ。忙しい中を、三代目園主の井上智博さんがお出迎え頂きました。同園の農園が展開するなかに数年前に作られたカフェ「忠左衛門」に隣接する、オリーブ園に囲まれた屋外のテラスにて、直接にお話を伺うことができました。また、広報担当の八十(やそ)さんに、園内や店舗などをご案内頂きました。

 井上さんご自身は、学校卒業後に神戸の青果卸売市場で務めていたそうです。お若い(今もお若いですが)頃は、小豆島の地域性や風土に魅力を感じることができず、都会へと一度は出て行ったのですが、神戸での暮らしの中で「自分がいてもいなくても、誰も関心を持たない」ような社会の現実に違和感が募り、自然が豊かで地域の中でお互いをよく知って支え合う島に戻って、自分にしかできない仕事をやっていこうと決心された、という趣旨のお話でした。お客さんを大切にされ、スタッフを大切にされ、もちろんオリーブや柑橘などの農産物をこよなく大切にされていることが、直接のお話を通じて伝わってきます。

 現在、従業員は約120名。最近、小豆島にはUターンだけでなくIターンの若者も増えているのですが、井上さんのところにもずいぶん働いているそうです。内訳を伺うと、生産現場のスタッフに加え、最近では多品目の商品製造にまつわる加工部門のスタッフ、そして最近増えているのは、通販での取引拡大に伴う、物流センターでのスタッフと、各地からの注文に対応するコールセンターのスタッフ。

 売り上げの伸びに応じて、生産も増やさねばなりませんが、同園では意欲的に耕作放棄地などを取得、あるいは借り上げて、開墾と植え付けの作業も並行して進めておられます。また、もともと作付けを行っており今も商品の大事なラインナップにもなっている柑橘園も広く手掛けておられますが、同園の特徴のひとつとして、柑橘園とオリーブ園が混在している点が挙げられます。柑橘園を整理してそこにオリーブを植えたケース、あるいは商品価値の高い晩柑類を新たに植えたケースなど様々ですが、傾斜した樹園地に柑橘とオリーブが混在している姿は、小田原でも十分にできるのではないかと感じました。


 

 樹園地の上の方からは、瀬戸内の海と、井上誠耕園が立地する池田の集落が一望され、園地が広大な範囲に及んでいることがよく分かります。また、山の上の方には、切り拓いたばかりの竹林も見え、精力的に放棄地を復原されている様子が見て取れました。園地の下の方にカフェがあり、そこから徒歩でわずかに下ったところが、井上家であり本社兼加工場。さらにしばらく下った国道沿いに、素敵な店舗と物流センター・コールセンターがあります。まさに、生産・加工・販売およびサービス提供と、目に見える地域の中で6次産業が完結し、そこに多くの雇用を生み出しておられます。

 海があり、集落があって、その上に樹園地があるという点では、まさに小田原でも同じような立地が幾つもあります。早川から片浦、下曽我から国府津あたり。小田原には、小豆島と違い、抜群の交通アクセスと、歴史遺産という優位性があり、取り組み次第では十分に活性化が可能。オリーブは、植え付けてから5年ほどは実がならないという制約があり、その間をどうやって経営するかと言うことが、導入のひとつの重要な論点です。井上さんのところでは、柑橘と言う事業基盤を守りながら、オリーブの導入を並行して進めてきたでしょうし、また市場の拡大に対応するため、本場である地中海やスペイン産の質の高いオリーブオイルを仕入れつつ、地場オイルとブレンドして製品化するなど、事業体としての工夫を幾つもされています。

 井上さんからは、「全て地場のものだけでは、時間もかかり、事業が立ち上がるのが難しいでしょう。まずは、優れた産地の良質なオイルを仕入れるなどして、地場のオイルの少なさを補いつつ、商品を作ってお客さんを得ていくことから始めても良いのではないでしょうか?」とのアドバイスを頂きました。このあたりは、いずれにしても小田原の生産者の皆さんと、いろいろ意見交換をしてみたいところです。


小田原での産業化に向けて

 小豆島町の取り組み、そして井上誠耕園の取り組みを拝見し、「産地化する」ということの素晴らしさをまざまざと見せて頂いた思いです。そして、そこに至る道のりは、少なくとも小豆島では100年を要しており、言うまでもなく一朝一夕にはいきません。しかし、誰かがどこかで始めなければ、そして途中の苦しい時代があってもそれを乗り越えていかねば、産業としてここまでの裾野を広げることがなかったことを思えば、「先人」たちの着眼と努力は、まことに尊いものだと言えましょう。

 小田原には、オリーブ栽培の適地としての可能性、生産地だけでなく来訪者を迎える観光振興の可能性、他の農林水産物との繋がりによる6次産業化の可能性など、オリーブへの取り組みを検討する価値が十分にあります。あとは、担い手となり得る人たちの情熱と意欲が、何よりのポイントになるでしょう。これから、様々に意見交換を行っていきたいと思います。

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