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2015年03月24日(火)

アートマネージメント講座「シンポジウム・協働の未来へ」

3月1日に横浜市の「戸塚区民文化センター・さくらプラザ」で、アートマネージメント講座「シンポジウム・協働の未来へ」が開催されました。公営施設の運営民営化の一環として始まった「指定管理者制度」の導入は、全国で10年ほど前から本格化しました。それまで県庁や市役所の直営か管理委託であった公共施設は、「民間の能力を活用しつつ、市民サービスの向上と経費等の削減を図ること」を目的に、民間の諸団体に管理運営全般を委任できるようになりました。管理運営を委任された団体を「指定管理者」と呼びます。横浜市の文化施設の多くも指定管理化されて10年が経ったので、その経過を振り返り、これまでの成果と今後の課題を考えようとの主旨で本シンポジウムが企画されたそうです。本シンポジウムには小田原市からも文化部文化政策課の冨士原直也氏がパネリストとして参加しました。
戸塚区民文化センターさくらプラザ戸塚区民文化センターさくらプラザ
その1.『指定管理で文化施設はどうかわったのか?~横浜モデル10年の果実』

第1部では、指定管理者制度について報告と議論がされました。公共文化施設の管理運営は、平成22年度では直営と指定管理者は半々となっています。横浜市が指定管理者制度を導入してからの10年間は、試行錯誤の連続だったそうです。そして、現在では「横浜モデル」と呼ばれるほど、日本各地で指定管理者制度を進めるときの参考となっています。「小田原市文化振興ビジョンを推進するための懇話会」の副座長を務めてきた鬼木和浩氏は、横浜市文化観光局の主任調査員として横浜市の文化行政を先頭に立って推進してきた方です。鬼木氏からは、有名な西洋絵画を背景に使いながら、横浜市の指定管理者制度の歴史を面白く分かりやすい報告がありました。
シンポジウム会場の様子・ほぼ満席でしたシンポジウム会場の様子・ほぼ満席でした
指定管理者制度は、この10年を経て、その目的を達して定着してきている一方で、解決すべき課題も現れてきているそうです。1つは、指定管理者公募方法と選定基準、2つ目は運営管理の実績評価です。
文化事業の募集要項パンフレット文化事業の募集要項パンフレット
指定管理者に応募するには事業提案書や収支計画書を提出しますが、施設側として業務の基準を明確化しなければなりません。管理者選定を公平に行うための評価委員会も必要となります。また、管理運営の実績や成果を評価して、現在の指定管理者が適切に管理運営しているかどうかの判断も必要になります。そして、何よりも中長期的な文化施設としての方針や、何を実現するかの目標をきちんと定めることが求められます。そのために横浜市の文化施設では「政策経営協議会」を設置して、行政と指定管理者が緊密な連携を取れるような場づくりがされているそうです。このような努力によって、横浜市では文化施設自身が自律的に自主事業を推進する力を築いてきたのです。区民ホールである「さくらプラザ」が、本シンポジウムを開催できるだけの問題意識と実力を持っていることは、横浜市の各文化施設のレベルの高さを表しているように感じました。

 
一方で、横浜の重要な文化施設の数か所では、公募から非公募に切り替えています。基幹的な文化施設としての中長期計画を企画立案する必要があり、その趣旨を徹底するためには継続的な管理運営が求められると判断したようです。このように、横浜市では10年間の前向きな取り組みを経て、柔軟で確実な運営体制を実現していると言えるでしょう。

その2.『アートが学校に行く~STスポット「アート教育」10年から見る此岸』

第2部は、教育にスポットを当てた文化施設による活動が議論されました。「アウトリーチ」とは、文化施設等がコーディネーターとなり、アーチストが学校へ出かけて、生徒が生の演奏や舞台を観賞したり体験したりする企画です。横浜のNPO法人「STスポット横浜」は、小劇場を若手アーチストの発表の場を提供する活動をベースにしながら、「横浜市芸術文化教育プラットフォーム」の事務局を担うなど、地域連携の核となる事業を活動の重要な柱として位置づけています。「STスポット横浜」の小川智紀理事長は、「小田原市文化振興ビジョンを推進するための懇話会」の委員をされています。「STスポット横浜アート教育事業部」のアウトリーチ事業、「旭区民文化センターサンハート」の自主事業、「横浜市民ギャラリーあざみ野」のワークショップなど、横浜市内の各公共施設が実施してきた教育現場へのアウトリーチ事業の事例が発表されました。
文化教育プラットフォーム紹介パンフ文化教育プラットフォーム紹介パンフ
また、「横浜市教育委員会」事務局の江口氏からは、子どもたちが生の演奏や舞台に触れるだけでなく、若い先生方の人材育成の場としても大変役に立っているとの興味深い報告もありました。そして、小田原市文化部文化政策課の冨士原直也氏からは、小田原市で計画されている「芸術文化創造センター」を単なる箱もの建設に留まらせないために、今から文化創造活動に取り組んでいると紹介されました。そして、小中学校へのアウトリーチ活動事例のスライドなどが上映されました。
■シンポジウムに参加して

(その1)の指定管理者制度の議論を聴いて、指定管理者制度への見方が変化したように思いました。指定管理者制度は公共施設の管理運営を民営化するという行政の丸投げや、施設運営経費の削減だけではありません。直営であろうと指定管理者制度であろうと、施設の運営をどのようにしていくのかを考えねばなりません。指定管理者と市役所・市民が参画する「政策経営協議会」などの場で、文化施設の活動をどうしていくべきかの意見をたたかわせながら、子どもからお年寄りまでの全ての市民へ、どのような文化を提供していくかを議論することが重要である、と言えるでしょう。それは、いわば「文化行政の民主化」と表現してもよいでしょう。横浜の取り組みにあるように、行政が一方的に方針を決め指示する時代は、もう過去になりつつあります。市民がより質の高い文化を享受するために、市民自身が行政と協働して公共施設の事業企画や管理運営に参画していく、そういう時代になっていると思いました。そのような民主的な運営を目指そうとすれば、手間も時間もかかり、管理運営の活動評価にはデータ収集整理にコストもかかります。しかし、市民自身がその手間とコストを避けていては、文化的で豊かな市民生活は実現することは難しいのではないでしょうか。

(その2)で報告されましたが、小田原市でも文化部が中心となって既に年間40件以上のアウトリーチが小中学校へ実施されています。更に、病院や介護施設などへ幅広くアウトリーチが実施されています。これらの活動実績は、教育関係者以外の市民にはまだ充分伝わってはいないように思います。勿論、小田原市が多くの民間団体や公共施設がコーディネーターを担っているような横浜市のレベルまで達しているとは思えません。しかし一方で、冨士原氏の発表から、小田原市でも既にその種はまかれ、芽を出し始めている、とも感じました。小田原市民自身が行政と協働して、課題解決に向けてより良い効果を生み出していく取り組みを更に活発化していく必要があります。

平成27年度には、いよいよ芸術文化創造センターの建設が始まります。当初5年間のセンター運営は小田原市直営となると発表されました。活動拠点としての建物だけでなく、竣工までの3年間の準備期間と直営の5年間で、芸術文化創造センターの市民参加型で民主的な管理運営体制づくりに取り組んでいく必要があります。そして、芸術文化創造センターを拠点にして、より多くの文化創造活動コーディネーターや担い手が育成されることを期待したいと思います。
(深野 彰 記)

2015/03/24 13:29 | 芸術

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