会場の全景。児童の後は父母席「アウトリーチ」と聞いても、まだ多くの方には馴染みがないでしょう。小学生の保護者の方であれば、ご存知かもしれません。アウトリーチを直訳すると「手を伸ばす」ですが、転じて、「援助が必要な所への出張や派遣」という意味があります。そこから、芸術文化の分野では、音楽やアートや演劇などの芸術家が通常の活動会場を飛び出して、観客の生活の場に出向いて働きかけをすることを云います。具体的には、学校や公共施設などで芸術普及活動を行うことです。学校でのアウトリーチは、日ごろ芸術文化に接する機会が少ない子どもたちに、プロの芸術家による本物の演奏や演技を観てもらおうとする試みです。そして、ただおとなしくかしこまって観るだけでなく、プロの指導の下で演技や演奏を自ら体験する機会も設けられていることも、アウトリーチの特徴と云えます。
小田原市文化部文化政策課では、このアウトリーチ事業を数年前から積極的に取り組んでいます。平成27年度には、アウトリーチを24件実施しました。平成28年度も引き続き、多くのアウトリーチ事業を計画していて、その実施を進めています。前々からアウトリーチ事業の現場を訪れてみたいと思っていたところ、小学校で「狂言」のアウトリーチがあると聞いて、取材を申し込みました。今回は、アウトリーチ事業の現場からのレポートです。
修行をして故郷へ帰る途中の山伏が歩いてきます。山伏は何も食べていないので、お腹がとても空いていました。すると、柿の木があるのを見つけ、山伏は、他人のものだと知りながら、舞台上手(向かって右側)で柿の木に登る動作をして、柿を食べる仕草をします。そこへ、柿の木の持ち主が現れます。柿主は山伏の姿を見つけ、からかってやろうと思います。山伏は修行の結果、「法力」という超能力を身に付けられるとされています。柿主に見つかってしまったと分かった山伏は、柿主が「猿?」と云えば、猿の鳴き声をします。山伏は法力で柿主をだませたと思っています。更に、「トンビ?、トンビなら飛ぶだろう」と柿主が云うので、山伏は柿の木から飛び降りるのですが、当然空に舞うことは出来ず地面に落ちて、したたかに腰を打ってしまいます。
■体験 あいさつ■
次は、いよいよ実体験です。子どもたちは体育館の床に正座します。その姿勢のまま、基本の所作(動き)の説明を受けます。かまえ、立ち居、歩く、掛ける・ねじる、走る、の動作の説明を聴いた後、実際に身体で体験します。
正座をして、床に手をつき、頭を下げてあいさつをします。狂言師の先生が、「今日、家に帰ったら、こうして『ただいま帰りました』とあいさつして下さい」と言われると、会場中に笑いが起きました。