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2021年09月10日(金)

「緑の波」 三の丸ホール・オープニングセレモニーに寄せて

「緑の波」「緑の波」
2021年9月5日は暑からず寒からず、神様が三の丸ホールのオープニングを祝って準備してくれていた様な日でした。7月にオープンした小田原市観光交流センターと三の丸ホールの間にあるイベントスペースには11時のセレモニー前から多くの市民が楽しみに集まっていました。
セレモニーは、小田原の古からの魂を紡ぐ4人の翁による木遣りで幕を開け、纏も登場し、壮大な北条太鼓の下に開始されました。
守屋市長は祝辞で、7月に閉館した市民会館が60年前に開館した当時の市民の熱い思いに言及され、この三の丸ホールでもその熱意を引き継いでいく決意を語られていました。
市民会館が開館した昭和37年(1962年)は、東京オリンピック(1964年)に先立つこと2年前。戦後の混乱がやっと落ち着いた様な時期でした。松竹歌舞伎や松山バレエ団などの公演可能な市民会館ができたことは、小田原だけでなく、西湘地区にとって画期的な出来事であったと思います。
最先端の技術の粋を尽くした三の丸ホール。市民会館の開場の市民の熱意を引き継ぎ、これから皆で育てていくことが大変重要だと思いました。
オープニングセレモニーの後は、三の丸ホール館内の見学に向かいました。
一足早く見学した者として、ほんの少し内部をご紹介してみたいと思います。
館内は、展望テラスを含むロビーエリア、展示スペース、小ホール、大ホール、に大きく区分されます。
大石館長は「出会いつながることで始まる」と述べられています。三の丸ホールは人が出会い「関係」を生み出す居心地の良い場として存在していると感じました。
① 展望テラスを含むロビーエリア:
ここを象徴するのが小田原城の本丸、それを囲む銅門や二の丸広場、そしてお城とマッチしたデザインの三の丸小学校も含む景観を一望に見られる3階と2階のロビーエリアです。これだけの贅沢な景観を楽しめるホールはなかなかないのではと思います。2階にはフリーWi-Fiと電源コンセントを持つ立ち机もあり、何と演奏会などのイベントがない場合は夜の10時まで市民に開放されています。三の丸ホールでワーケーションなんてちょっと素敵ではないですか!
また今はコロナで閉鎖されていますがロビーの端には、キッズスペースがあり、小さなお子さんたちも楽しく時を過ごすことが出来ます。
② 展示スペース:
オープニングの展示は、第85回の西湘展。200点余りの作品が、4か所の展示エリアで展開されていました。メインエリアは1階入り口前の空間。その他1階2階の回廊エリアにも十分な展示スペースがあります。壁面も十分、照明も完備され、これから様々な作品展が開催されるだろうと夢がふくらみます。
③ 小ホール:
多目的な用途を想定した小ホールは、2階席の固定椅子と1階は可動席で構成され、ステージ上の音響反響版、天井には照明などの自由な転換を図れる通路まで配備した本格的なホールです。オープニングの日は、1階席が2階の下に収納され、先の西相展の絵画と彫刻が展示されていました。天井が高く広々としたスペースで自由なレイアウトがされ、回遊しながら見るのも、あるいは2階席に座って全体を俯瞰するのもまた一つの楽しみかもしれません。2021年10月3日には、“かもめコンサート”と名付けた若い演奏家の出演機会を作るシリーズの17回目として、永田菫さんのヴィオラリサイタルが杮落としとして開催されます。
展示に音楽に演劇に、私たちがどのように使いこなすかというチャレンジが試される存在です。
④ 大ホール:
このホールに足を踏み入れた瞬間に、多くの方は異次元の空間に踏み込んだという感じを持たれると思います。タイルと木の壁に囲まれ、ステージの正面に位置する1階席、2階席、天井桟敷の様な3階席、ボックスシートのようにさえ感じる2階、3階のテラスシートで構成されます。欧州の由緒ある音楽ホールの様な、はたまた教会の様にも感じられる空間に身をゆだねて席に座ると、空間に色を添える緞帳が目に入ります。公募により選ばれた市内在住の日本画家芳澤一夫さんのデザインによる、小田原の海と周囲の山々をモチーフとしたデザインとのことです。
そして、通常は座席となっていますが、オペラなどの公演の時のためのオーケストラピットも完備されています。何よりこのホールの音響が、演奏家にとってまた聴衆によって誇れるものになることは、見学に来ている人々の話声が、とても素直にまた耳障りな響きでなく聞こえてくることから確信されます。
2021年9月12日の開館記念式典では杉本博司さんの構成・演出による三番叟「神秘域」続いて、9月19日には小田原童謡大使のコーラスグループ“ボニージャックスとベイビーブー”、9月26日には新規購入したスタンウェイフルコンサートピアノの選定者として、中根希子さんによるピアノ開き、と、この大ホールに生命のひかりをともすコンサートが続きます。
この他にも、100人程度の使用に適するスタジオ、グループや個人の練習や録音に適する小スタジオなどの設備も用意され、人が集うための様々な仕掛けが準備されています。更に、大がかりな催しの設備持ち込みも可能な搬入口も完備されていました。
さて、このレポートのタイトルとした「緑の波」。大ホールのステージから座席を座ると、緑の旗が波のようになびいています。ホールの聴衆のディスタンスを保つため、隣席が空くよう設置されたものです。まるで最初からこのホールのためにデザインされたように、床や壁の深いオレンジの色とのコントラストを示しています。
実はこの緑の布は、三の丸ホールのスタッフの方が、自分達の手で大きな布から切り出して並べたものと伺いました。
デザインビルトという新しい方法で、設計から建設に至るまで作り上げられたこのホール。最後の仕上げとして、ホールのスタッフによる手作りの「緑の波」であったことは、何かほっとする人の温もりを加えてくれたように感じられます。
市長は祝辞で「ホールは演ずる人、スタッフ、聴衆、皆の共同作業によってこれから創り上げていくもの」と語られていました。
大石館長の言葉通り、この素晴らしいホールで多くの新しい出会いや繋がりが生まれることを心から願います。

2021/09/10 18:09 | 芸術

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