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2021年11月18日(木)

皆春荘・秋空の弦楽四重奏

(写真1)コンサートのチラシ(写真1)コンサートのチラシ
 11月6日土曜日秋空の下、小田原・板橋にある皆春荘(かいしゅんそう)で弦楽四重奏のコンサートが開催されました(写真1)。主催は「風の音カルテット」で、小田原市が共催しました。
(写真2)皆春荘の門(写真2)皆春荘の門
 皆春荘は、小田原市板橋地区にあります。明治40年(1907年)に第23代内閣総理大臣などを務めた清浦奎吾(きようら けいご)によって建てられました。大正3年(1914年)に、南側に隣接する山縣有朋(やまがた ありとも)の別邸として有名な「古稀庵」の別庵として編入されました。旧東海道から脇道に入り、古稀庵を過ぎると急な坂道になります。その上り始めの右手に、幹の丸太をそのまま使った皆春荘の門が見えます(写真2)。
(写真3)玄関の「皆春荘」扁額(写真3)玄関の「皆春荘」扁額
 素朴でがっしりとした門をくぐって自然石を組んだ石段を上ると、主屋の玄関になります。主屋の玄関の正面には、「荘春皆」と書かれた扁額が掛かっています。落款の「含雪(がんせつ)」は有朋の号で、落款印は「山形有朋」となっています(写真3)。
(写真4)皆春荘の主屋(写真4)皆春荘の主屋
 コンサートの会場は、主屋の座敷です(写真4)。座敷からは、ガラス戸を通して庭園の緑が見え、今は木立で見えませんが、かつては遠く相模湾を借景としていたことでしょう。
 今回のコンサートには二つの特徴がありました。一つは、小田原市文化部文化政策課が行っている「歴史的建造物利活用プロジェクト」です。小田原に遺る伝統建築を利活用した市民によるさまざまな企画を実施して、文化の街・小田原を盛り上げていこうとするものです。「風の音カルテット」が企画に応募して、本コンサートが実現しました。
(写真5)TSUNAMIヴァイオリン(写真5)TSUNAMIヴァイオリン
 もう一つは、弦楽四重奏で「TSUNAMIヴァイオリン・プロジェクト」による楽器が使用されたことです(写真5)。TSUNAMIヴァイオリンは、2011年3月11日に発生した東日本大震災の津波から生じた流木や倒壊家屋の材木で造られています。そして、これらの弦楽器の表板と裏板の響きをつなぐ「魂柱」には、陸前高田の「奇跡の一本松」が使われたそうです。
(写真6)TSUNAMI楽器を持つ四重奏団(写真6)TSUNAMI楽器を持つ四重奏団
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのそれぞれの裏板には、奇跡の一本松の絵が描かれています。千羽鶴のように「千」の数字に祈りと願いを込めて、これらの楽器と演奏者をつなぐのが「千の音色でつなぐ絆」プロジェクトです。このプロジェクトの想いに共感した風の音カルテットが、楽器をお借りして本コンサートで演奏されることになったのです(写真6)。
(写真7)楽器の由来を説明(写真7)楽器の由来を説明
演奏途中のMC(Master of Ceremonies:曲間での演奏者の話)で、ヴァイオリン奏者の養田さんがTSUNAMI楽器の由来の説明をされました(写真7)。
(写真8)座敷に座布団を敷いて鑑賞(写真8)座敷に座布団を敷いて鑑賞
 純和風の古民家の畳座敷で開催されるコンサートは珍しいでしょう。観客は襖を取り払った隣の座敷に座布団を敷いて、座って演奏を鑑賞します(写真8)。
(写真9)弦楽四重奏の演奏(写真9)弦楽四重奏の演奏
コンサートホールでは、舞台の楽器の音の方が座席よりも高い位置にあり、また遠く離れています。ところが、ここでは目の前の楽器から、自分の顔と同じ高さで弦の音が耳に届いてくるのです。これはなかなかない鑑賞体験と云えるでしょう(写真9)。
 演奏曲目は、「里の秋」、「小さい秋見つけた」など秋らしいテーマ、「花は咲く」は震災復興のテーマ曲、「メモリー」、「タラのテーマ」など映画音楽など日本で親しまれている曲でした。すると、MCで神馬さんが「これまでクラッシック曲がありませんでしたね」と話して、モーツアルトのディベルティメント ヘ長調 Kv138 1楽章が演奏されました。そして、最後の曲「川の流れのように」が終了すると、盛大な拍手が送られました。拍手に促されたアンコール曲は、「ふるさと」でした。古民家建築は天井・床・柱の全てが木造であり、壁は土壁ですから、楽器の音が柔らかくなっているような気がしました。古民家コンサートの奥深い可能性を感じました。
(写真10)女の子にヴァイオリンを指導(写真10)女の子にヴァイオリンを指導
 12時と14時の2回公演でしたが、その合間に養田さんが、興味を示した女の子にヴァイオリンの音の出し方を教えていました。親しみやすい雰囲気のコンサートだからこそ生まれた市民交流でしょう(写真10)。
(写真11)コンサートが終わり盛大な拍手(写真11)コンサートが終わり盛大な拍手
 私事ですが、東日本大震災発生の瞬間に私は宮城県栗原市で最大震度7を体験しました。避難所生活や南三陸町の津波被災現場の静寂そのものの光景は忘れられません。それは正直云って思い出したくない忘れたい体験です。しかし、10年を経ても、このようなプロジェクトが息長く継続されていることに深い敬意を感じました。会場には募金箱が設けられ、来場者が次々と募金されていました。楽器借り出しには3万円掛かりますが、それを上回る募金が集まったそうです。小田原市民の暖かい心も感じられた素敵なコンサートでした(写真11)。
(深野彰 記)

2021/11/18 11:41 | 音楽

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