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2017年01月17日(火)

「人形浄瑠璃」体験講座

体験講座「人形浄瑠璃」のポスター体験講座「人形浄瑠璃」のポスター
小田原市では、古典芸能の上演やワークショップの企画に力を入れています。昨年度、今年度は「松竹大歌舞伎」を招いて上演しました。また、子どもたち向けの能楽ワークショップも毎年開催しています。更に、小学校のアウトリーチ事業としても、「狂言」などの古典芸能を招いて紹介しています。「平成28年度小田原市文化創造活動担い手育成事業」の一環として12月20日に開催されたのは、伝統芸能体験講座「人形浄瑠璃」です。いわゆる「文楽」と呼ばれる人形芝居です。「文楽」は、明治時代に大阪にあって人形浄瑠璃を上演していた「文楽座」の名に拠っていますが、人形浄瑠璃の代名詞となりました。今回の講座は、古典芸能に接する機会が少ない子どもたちに、プロの人形遣いによる本物の人形劇を観てもらおうとする試みです。そして、ただ観るだけでなく、舞台上で人形遣いを自ら体験する機会も設けられている体験講座となっています。小田原市民会館小ホールで上演された人形浄瑠璃をレポートします。
文楽人形遣い「吉田幸助」さんインタビュー

公演に先立って、文楽人形遣いの吉田幸助さんにインタビューする機会を設けていただきました。出演者控え室で出演前に幸助さんにお話を伺いました。
人形浄瑠璃は世襲される家元制度ではなく、師匠に入門した弟子が襲名して技を伝えていくそうで、世襲が一般的な能や歌舞伎の世界とは異なります。ただ、幸助さんは祖父と父親が人形遣いで、子どもの頃から人形に接していました。幸助さんのように親子で継いでいく例は、文楽では希なのだそうです。
人形は3人で扱います人形は3人で扱います
最初に、なぜこの講座に出演することになったのかを尋ねました。幸助さんはその動機を、「子どもたちは新しいものに目が行くが、古典芸能というと食わず嫌いになっている。でも、古典好きの子もいるはずです。まず子どもたちに食べてもらう。見たことのないことを体験することによって興味をもってもらいたいと思っています」と答えられました。

また、「難しいことを話すと眠くなってしまいます。子どもたちが興味を引く言葉を使うように心がけています」と、子どもたちが興味を持つような努力もされているそうです。「日本の伝統文化の入口として楽しんで欲しい」とおっしゃっていました。もともと人形浄瑠璃は庶民の娯楽でしたから、「かた苦しく見なくていい」そうです。古典芸能と云うと何か難しいものと先入観を持ってしまいますが、単純に人形が演じる物語を楽しもう、でよいのですね。
主遣いは下駄を履きます主遣いは下駄を履きます
人形浄瑠璃は、「人形遣い」と云う黒衣(くろご)の三人が人形を操りながら物語を演じていくものですが、写真の様に主遣いが紋付袴で演じることを「出遣(でづか)い」といいます。人形遣いには高度な技術が求められます。観ている人に「これ人形なの!?」と思わせる技量がなければ、一人前とは云えないそうです。吉田さんは、修練に修練を積んだ人形遣いになれば「人形が人間以上に人間らしく」見えるようになると話されました。これは人形浄瑠璃の真髄を語る言葉と感じました。
人形の解説人形の解説
文楽の上演と解説

 いよいよ開演です。多くの子どもたちは、人形浄瑠璃を観るのは初めてのことでしょう。最初の演目は「三番叟(さんばそう)」で、めでたい日に演じられます。朱と緑、黒と金などの色鮮やかで豪華な衣装を着けた人形が、まるで踊るように人形遣いによって演じられました。人形を見つめていると、いつの間にか黒衣が目に入らなくなっていました。すっぽりと頭から足先まで黒装束をまとった黒衣は、影となって存在感を消しているのです。
人形の仕組みを説明します人形の仕組みを説明します
人形遣いの3人は、頭(かしら)と右手を受け持つ「主遣い(おもづかい)」と、左手を受け持つ「左遣い」、足を受け持つ「足遣い」に役割分担しています。主遣いの幸助さんは、細での荒縄を歯に巻いた下駄を履き、他の黒衣より少し高くなって人形を扱います。人形の頭と胴、衣装と手足、それぞれの構造が解説されました。顔の眉、目玉、口、首振りなどが、精巧なからくりによって表情豊かに変化します。
人形は、物語の役によって頭と衣装が用意されます。商家のお嬢様は、煌びやか髪飾りと豪華な着物を身に付けています。
人形の衣装を縫います人形の衣装を縫います
人形の衣装つくり

今回の講座では、人形浄瑠璃の舞台裏で行われている準備作業についても学ぶことができました。驚いたことに、人形の衣装は遣う者自身が上演毎に新しく着付けるのだそうです。人形遣いは人形を操る技だけでなく、衣装を着付けるための裁縫の技も身に付けなければならないのです。幸助さんは丁寧に素早く着物を縫いつけていきました。帯も縫いつけて、ひょうきんな人形が完成しました。
衣装の完成です衣装の完成です
     
子どもたちが舞台で人形を操ります子どもたちが舞台で人形を操ります
子どもたちが人形遣いの体験をする

次は、いよいよ人形遣いの実体験です。幸助さんの呼びかけで子どもたちが舞台に登りました。子どもたちは人形を操る腕木や糸の説明を受けます。首振り、手の動き、足の遣い方、など実際に人形を操作して体験しました。歩いたり、手を振ったりする操作はすぐに出来るようになるのですが、人形の動きはぎこちなく、とても人が動いているようには見えません。子どもたちは、「人間以上に人間らしく」人形を操ることが、どれほど難しいことなのかを実感したことでしょう。次に子どもが舞台に上がり、人形の相手役を演じました。一人前の主遣いになるには30年の修練が必要だそうですが、きょとんと棒立ちする子に対して、表現豊に声を掛ける人形の方が、よほど生々しく見えるのですから驚きでした。
子どもが人形の相手役をします子どもが人形の相手役をします
神奈川県には各地に人形芝居が伝承され「相模人形芝居」として盛んに上演されています。小田原でも「下中座」が「相模人形芝居」を伝えています。かつて、日本各地に人形浄瑠璃座(芝居?)があり、庶民が楽しんだ身近な娯楽であったことが分かります。今回の講座を体験した子どもたちが、地元の「相模人形芝居」にも関心を寄せてくれるとよいなと思いました。(深野 彰 記)

2017/01/17 15:09 | 伝統芸能

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