レポーターブログバナー
2020年01月28日(火)

第22回文化セミナー「文化資源の活用と観光」(前半)

案内看板案内看板
 1月19日、おだわら市民交流センターUMECO第1・2会議室にて、「第22回文化セミナー 文化資源の活用と観光 ― 2020へ向けた小田原へのインバウンド ―」と題した講演会が開催されました。「令和元年度 小田原市文化創造活動担い手育成事業」として小田原市役所文化部文化政策課が主催しました。第一部の基調講演の講演者は、文化政策研究者・独立行政法人国立美術館理事の太下義之さんと、観光庁観光地域振興部観光資源課地域資源活用推進室室長の山田亜紀子さんでした。第二部のパネルディスカッションでは、「小田原の文化資源とインバウンド対策」のテーマで、パネリストは基調講演のお二人で、コーディネーターは小田原市観光協会DMO推進マネージャーの高村完二さんでした。オリパラで多くの海外からの観光客が見込まれる今年、小田原市にとっても関心の高いテーマで、会議室が一杯になるほどの盛況でした。また、「おだわら市民学校専門課程」の「地域の文化力を高める」第10回講座とも連携していて、市民学校の受講生も参加されました。

※今回の内容は2回のレポートに分けてお届けします。後半もお楽しみに。
第一部:基調講演

(1)地域の文化資源を活用した文化観光の取り組み
太下義之さん太下義之さん
 太下さんによる講演は、「オリンピックと『文化プログラム』」というインパクトある話から始まりました。オリンピックはスポーツの祭典と思い込んでいたのですが、実は「文化」の祭典でもある、というのです。近代オリンピックの提唱者クーベルタン男爵(フランスの教育者)は、最初から「スポーツ、文化、教育」と理念を掲げていたそうです。オリンピック開催都市は、4年間に亘って「文化プログラム」を実施することが求められます。今年の東京オリンピックでも、4年前から東京都主催のフェスティバルや日本政府主催のフェスティバルが推進されてきました。それらの集大成として、国内外へ日本の様々な文化をPRするため「東京2020NIPPONフェスティバル」を展開し、文化庁では「文化力プロジェクト」が推進されました。まさしく、「文化オリンピアード」で、大会に向けた祝祭感の高揚が図られているのです。
TOKYO2020応援プログラムロゴTOKYO2020応援プログラムロゴ
 前回のロンドン・オリンピックで「Inspired by London 2012」が展開されて成功した事例を踏まえて、日本でも同様の取り組みが進められてきました。しかし、これらの活動は一般的に十分知られているとは言えないでしょう。「TOKYO2020応援プログラム」は、オリンピックの五輪マークの代わりに用意されたロゴですが、このプログラムは広がりを見せていません。

参考)公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会HP→https://participation.tokyo2020.jp/jp/organizer/
beyond2020ロゴbeyond2020ロゴ
 また、五輪後を見据えて内閣官房が推進している「beyond2020」も一般的には知られていません。右はそのロゴマークですが、見かけたことはないように思います。

参考)内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局→https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/beyond2020/about/
TOKYOTOKYO FESTIVAL ロゴTOKYOTOKYO FESTIVAL ロゴ
 そして、東京都は「TokyoTokyo FESTIVAL」を推進しています。最大2億円の協賛金が提供される企画を公募し、13件を選定しました。その中の《まさゆめ》プロジェクトでは、巨大な顔のバルーンを東京の空に揚げるアート活動で、その顔を選ぶ「顔会議」が開かれるそうです。

参考)Tokyo Tokyo FESTIVAL HP→https://tokyotokyofestival.jp/
※なお、各マークの利用には利用申請・許諾が必要です。詳しくはリンク先にお問い合わせください。
 更に、政府主催の日本は苦では、「日本人と自然」をテーマに、縄文時代から現代まで続く「日本の美」を紹介する活動を進めています。これは訪日外国人観光客向けの日本文化プログラム「『日本の美』総合プロジェクト懇談会」の主催です。
 このように、現在まで多額の予算を投入して数多くの文化活動が推進されていることを太下さんは紹介されました。一方で、観光庁では、観光客の急激な増加により地域に問題を引き起こす「オーバーツーリズム」(観光過剰)に対して、「持続可能な観光」をめざす事業展開を進めています。アートでは、文化観光として「瀬戸内芸術祭」、「群馬中之条ビエンナーレ」、「岡山芸術交流」、「札幌国際芸術祭」「横浜トリエンナーレ」など、地域に根ざした国際芸術祭の開催を支援しています。
 太下さんは、「自治体は何をすべきか」について4つの施策を提案されました。
1.地域文化資源の再評価:自分たちの地域の文化資源を見直す。「東京文化資源会議」
2.文化プログラムのシンポジウム開催:交流人口の拡大と地域の活性化
3.地域の文化芸術関係者・団体のネットワーク化:ゆるやかなつながりの構築。
4.地域版アーツカウンシルの整備:地域発信のアーツ事業への支援
 太下さんは講演の最後に、「地域の文化資源としての食文化」を取り上げられました。2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、「和食」とは懐石料理のようなものではなく、「日本人の伝統的な食文化」を指しています。多様で新鮮な食材、栄養バランスの良い健康的な食生活、自然と四季の移ろいを表現、これらを総合して「和食」とされています。これは、私たち日本人の日常的な食生活です。日本人には当たり前の「だし」や「発酵食品」など、地域の食文化遺産を再確認できる対象です。これほどまでユニークな食文化を提示する「食文化のミュージアム」が、なぜ日本にはないのか?と太下さんは問題提起されました。是非民活で設立して欲しいと、講演を結ばれました。 
(2)訪日外国人の現状と文化資源の観光活用による地域活性化について
山田亜紀子さん山田亜紀子さん
 観光庁の山田亜紀子さんは、まず訪日観光客の実態をデータで示されました。2019年は3,188万人で、2020年では4,000万人が目標です。2018年の内訳では、アジアからが2,637万人で、全体の84.5%を占めていました。このうち73.4%が東アジアからで、中国・韓国・台湾・香港で、実に全体の2/3を占めています。訪日外国人の旅行消費額は、2018年で4兆5千億円を超えています。これは、電子部品や自動車部品の輸出額を超える金額なのだそうです。観光客の動態も変化していて、中国人観光客の個人旅行の割合は、2012年では28.5%であったものが、2018年では68.6%と2/3まで急増しています。また、一時期爆買いで有名になったモノを買うことより、娯楽サービスに消費する「コト消費」が40.9%へ増加しています。訪問地も、東京/東海、京都/大阪、北海道、福岡といった、いわゆる「ゴールデンルート」だけでなく、地方を訪問する外国人旅行客が増えています。日本食や観光地・ショッピングだけでなく、美術館巡り、伝統文化体験、ポップカルチャーなどへ訪日期待が広がりを見せているそうです。
 観光庁では、「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」を開催して、世界が訪れたくなる日本の実現に取り組んでいます。中でも、「観光資源の魅力を極め、地方創生の礎に」の視点として、「文化財」を「保存優先」から観光客目線での「理解促進」、そして「活用」への取り組みを支援しています。日本博と連動して、各地で観光コンテンツを創出し、訪日外国人の地方誘客・消費拡大を促進するための環境整備に取り組んでいるそうです。外国人の不満の一つに夜間の楽しみ不足があり、博物館では夜間・早朝開館やナイトミュージアムの充実などが考えられます。最後に、「城泊」など全く新しい発想でのコンテンツの創出などを検討していくことが必要だと強調されました。
後半は、第2部のパネルディスカッション(小田原の文化資源とインバウンド対策」についてのレポートとなります。ご期待ください。

2020/01/28 12:23 | その他

ページトップ