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2020年01月31日(金)

第22回文化セミナー「文化資源の活用と観光」(後半)

パネルディスカッションの会場パネルディスカッションの会場
第2部 パネルディスカッション「小田原の文化資源とインバウンド対策」

 第2部のパネルディスカッションは、最初に高村さんから小田原の観光の現状と課題について説明がありました。小田原は、東京から35分、寄木細工やかまぼこなど地場産品があります。高村さんの肩書にある「DMO(Destination Management・Marketing  Organization)」とは、マーケティングの手法を入れた観光地域づくりを取りまとめる組織です。小田原観光協会では、さくら祭り、北条五代まつり、提灯祭り、酒匂川花火、菊花展、梅まつり、流鏑馬など、通年で季節ごとに観光イベントを開催して観光客へ小田原をPRしています。観光客に認知され人気高い三大小田原名物は、小田原城・かまぼこ・干物です。また、知らないけど興味があるものとして、地魚、小田原おでんがあります。観光客数は、2018年に618万人で、そのうち宿泊者数は、30万人で4.9%でしかありません。これは宿泊が多そうな箱根も同じで、8割が日帰りなのだそうです。
 小田原の観光コンテンツを歴史順に見ると、戦国時代は、北条早雲、梅・干物、お茶、風魔忍者、ういろう、江戸時代になると、宿場町、小田原提灯、かまぼこ、二宮金次郎、明治時代では、明治政財界人の別邸文化があります。地形的に見ると、一夜城の鎧塚ファーム、江之浦測候所があります。昨年は、「北条早雲公没後500年展」があり、9月には「小田原城プロジェクションマッピング世界大会」が開催されました。小田原の「食」は期待は低いが満足度は高いので、小田原魚PR大作戦や港の夜市などを企画したそうです。また、街全体の博物館や街歩きに取り組み、「日本まちあるきフォーラムin小田原」を開催して、長崎・弘前・京都のガイドと交流しました。
パネルディスカッションの様子パネルディスカッションの様子
 また、インバウンドでは、瞑想などの体験や小田原城での本来の忍者体験を企画しています。今後は、文化資源の見つけ方や、どう上手く文化と観光をマッチングさせていくかが問われる、と話されました。
 高村さんの問題提起に対して、太下さんは、「小田原城を江戸文化として紹介していく」コンセプトを紹介され、その具体策として、「ミュージアムショップの充実」を上げました。銀座ツタヤ書店では、本だけでなく刀剣や根付を売っているショップがあり、外国人に3百万円の刀が売れているとの事例を紹介されました。小田原城内に、そのようなショップがあれば買うのではないか、と仰います。銀座で買うよりも、お城や忍者の体験後に買う方がストーリー性があると強調されました。また、「城泊」は、欧州のキャッスルステイの先行事例があり、別邸文化のある小田原で邸宅に泊る日本的生活の体験も魅力的です。高村さんは、実際には問題多く難しいが、外人モニターからも話が出る、と話されましたから可能性を探る価値はありそうです。
 山田さんは、小田原の「キラーコンテンツ」として、城、忍者、「食」の寿司をあげましたが、どうもインパクトに欠ける。どれも他地域にもあり決め手に欠けるので、もう一押し他と比べて差別化する何かを創出する必要があるのではと意見を述べられました。城の体験は一番人気があり訴求力もありますが、工夫が必要です。小田原城の外観は美しいのですが、中は近代的ミュージアムになっていて、戦国時代の往時を知る機会はなく、どうも物足りない。展示をもう一工夫して、北条のお殿様の生活をリアルに感じられるように再現されるとよいのではと提言されました。最上階の「摩利支天」は囲いがあって遠くて新しいので実感が乏しいし、甲冑はケースの中に展示されている。実際の甲冑を使って動きのある展示や体験があるとよいのではないか。「城泊」では、宿泊させるための仕組みや、夜の体験があると魅力的になる。それらのコンセプトアイデアは、外国人に聞くのが一番よいので、国際交流員、ALT在留外国人に聞き、住民を巻き込んだ資源の再発掘が必要だ、と意見を述べられました。
 また、繰り返し来てもらう、リピートを増やすにはどうして行ったらよいかの問いに、太下さんは、「難しいですね。有名観光地は行きたいコンテンツとして、紅葉の京都、雪の金沢などはっきりしている。小田原は地の利がいい分日帰りになってしまうので、夜の観光イベントに参加して、そのままステイするような仕掛けが必要でしょう。小田原と似ている環境のエリアとして奈良があります。奈良は、ホテルの客室が少なく、あれほど文化財があるのにほとんど日帰り客しか来ない。そこで、奈良市では有名ホテルの誘致などに取り組んでいるそうです。ナイトエコノミーの振興とホテルの誘致の両輪が必要でしょう。」
 山田さんは、「リピーター問題では、既に訪日外国人の6割がリピーターとなっているので重要な課題です。そのため、季節ごとの異なる楽しみ方を提案する。春は桜、夏は海、秋は紅葉など、常夏の東南アジアの人は四季の変化は好きですから。そして、四季の行事と地域の活動を紹介することを組み合わせる必要がある。また、決まった観光ルートでないところ、例えば、地元の人の行く居酒屋や、民泊の整備など、地元の人々との交流する場が魅力になります。旅慣れた人ほど地域のファンになって、また来てくれるのです。街全体で観光客をウエルカムしておもてなしすることが大事でしょう。
 そうは言っても、困るのはコミュニケーションですが、最近はいろいろツールがあります。地元の人との交流を積極的に進めること、魅力に感じてくれてリピーターとなれば、口コミで来る人も増えてきます。」
 インバウンド対策のポイントアドバイスや注意事項は何でしょう、の質問に、太下さんは、「よく、外国人が通っているが下りてくれない、引き留めるためのガイドさんを増員したが効果がない、との話があります。観光客が来てからでは遅く、事前情報がないのが問題です。事前にどれだけ情報提供するか?が大切で、デジタル情報を出していき、それも多言語展開する。小田原の情報は海外への多言語展開されていない。しかし、説明文を翻訳すればいいのではありません。共通の知識がない外国人には、背景も説明する必要があります。「能」の素晴らしさを説明するとき、日本人へ解説するように説明しても歴史知識がないから伝わらない。外国人に伝わり易いようにするには、例えば、ヨーロッパの演劇と何が違うのかを説明する文を作成する、それを多言語化するという工夫が必要です。これをやっていくと、分かり易い説明文となります。これは日本人にとっても分かり易くなって、文化を共有化できるようになります。観光のプロモーションが、地域の学習にも役立つ副産物となるのです。」
 山田さんは、「文化の関係者と観光の関係者とよく交流してもらうことが必要です。本日の文化部開催のセミナーはよいことで、そうあることではありません。文化と観光は、同じ方向に向けないことがあります。例えば、寺と観光関係者と交流できないケースなどです。今日は良い事例です。観光関係の人が、アーティストや文化管理している人と一緒にマーケットインの戦略でアイデアをまとめ上げていくことが必要です。地域の人は、地域の良さを発信したいとの思いが強いのですが、旅行者目線だとそこまで求めていないことが多いですね。本物はこうなんだと強調しても、観光客はもっと楽しみたいと思っているだけで、地元の思いとズレている。ディープすぎる地元と言えます。まず楽しめるコンテンツ、観光客は楽しみに来ているので勉強しに来ているのではないという立場で考えるべきです。」と、分かり易く解説して頂きました。

質問コーナー

①観光客を増やす目的はお金だけでしょうか?

 山田さんは、「インバウンド対策は、経済成長の柱や地方創生(交流人口を増やす、外のパワーを増やす)であり、外国の人と触れ合うことで地元の人が地域の魅力を再発見する、文化に誇りを持つ、日本文化のプレゼンスを増やすと言った大きな効果を期待しています」。太下さんは、「外からの目線が入ることで、地域の再認識につながることが重要です。富山県の利賀(とが)村は、国際的な演劇祭で有名です。小田原が世界に知られるようになり、「小田原に来たかったから日本に来た」と言われれば、地元の子どもの誇りになります。他国と普段から仲良くなっていけば、それが安全保障に貢献していくことに繋がります」。
②ゴールデンルートの通過点、文化資源の有利な点、不利な点

 太下さんは、「東京から近いのが有利な点ですが、日帰りできるのが不利な点ですね。例えば、インパクトのある国際的なフェスティバルを開催して、宿泊してもらう。また、文化庁が取り組む「東アジア文化都市」に立候補するというアイデアもあります。日中韓の三都市が、生活文化に基づく芸術文化イベントを開催して交流するものです。小田原だけではと云うのであれば、箱根と広域連携して取り組む可能性あるのではないでしょうか」。
 山田さんは、「今でもイベント的なことはあるのかな。一方で、大きな仕掛けをするのも必要でしょう。小田原のコンテンツをアピールしてくことが重要です。新しい取り組みにチャレンジしていって欲しいですね」とまとめられました。
 今回の文化セミナーは文化と観光のマッチングをどうしていくべきか、をテーマに専門家の話を聞きました。オリンピックは実は文化の祭典でもあるという冒頭の話には正直驚きました。小田原に住んでいる人と観光客は、別世界の関係と感じてしまうのが普通です。今回のセミナーで、4000万人もの観光客をどう受け入れ、それを持続可能としていくか。そして外国人観光客に喜んでもらいリピーターとなってもらうためには、文化との結びつきが欠かせないことがよく理解できました。小田原市民が日常的に触れている小田原文化を再発見し、再評価して観光資源として活用していく視点が重要です。世界の人々と交流する時代に否が応でも巻き込まれているのだ、と感じたセミナーでした。

深野彰:記

2020/01/31 14:09 | その他

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