植物を楽しむエッセイ「木声花詩」
新型ウイルス「コロナ」(COVID-19)には、「3密」とか外出規制などがあり、令和2年9月現在、東京都内では多い日には、いまだに300人超、神奈川県も100名に近い感染者数がマスコミに報じられている。更には時折地元の状況もフェイスブックに投稿されるなどと、コロナが身近に迫っている恐れを感じていることでしょう。日々の行動にどうあるべきかが問われており、迂闊に出掛けることは憚られる。
日々の生活を自宅及び周辺に限る毎日は、新しい生活様式と言えるかもしれない。日々の仕事の他、特にこの時とばかり何か有意義なことに時間をまわすことが望まれるが、なかなかそうはならず、TV、刊行物、Web情報などで時を過ごしている方も多いのではないしょうか。
この様な時、自宅で花壇の花を育てたり、山野草を愛でたりするのは良い息抜きとなり、植物図鑑、栽培テキスト、写真集、Webホームページなど役立つものが数多くあるが、以下に紹介するのは、単なる植物図鑑ではなく植物を愛する人が取り纏め、心温まるまるエスプリの感じられる書物です。つまり、土いじりをしないで、自宅で植物を楽しむことができる書き物としての文献紹介です。
紹介する書物は、飯田和著「木声花詩」(発行人:子どもと生活文化協会(CLCA)、発行:1998年、写真1参照)です。「木声花詩」は、「はじめ塾」(青少年のための寄宿生活塾)の機関誌「あやもよう」の裏表示に配置された植物画とエッセイをまとめた書物です。
著者の飯田和氏は若い頃から植物を学び、シダ研究の著名な方々とも関わりながら、小田原市で教鞭をとるなど教育に携わり、後に小田原市教育研究所所長をへてCLCA会長に就任している。
「木声花詩」は、春夏秋冬の季節で編集されており、季節ごとに春14件、夏12件、秋13件、及び冬13件の合計52種類の植物が紹介されている。
写真1 木声花詩(飯田 和著)
「木声花詩」のエッセイ例 ひがんばな
ひがんばな
実に季節に忠実な花で、毎年秋のお彼岸のころ、そこかしこのあぜ道や土手、はては墓地などに、突然、緋の毛せんをしきつめる。
古くから、私たちの生活と深いかかわりをもってきた花なのだろう。この草ほど別名の多い花はない。マンジュシャゲ、シビトバナ、ユウレイバナ、シビレバナ、シタマガリ、ハミズハナミズなどあげればきりがない。
標準和名は、ヒガンバナであるが、ヒガンバナにしてもシビトバナやユウレイバナにしても、きまって秋のお彼岸のころに咲き、それも墓地などでよくみかけることや、この花の群が、何となく、見華やかなわりに、いちまつの寂しさと、ただならぬ妖気を漂わせているからであろう。
シビレバナ、シタマガリは、リコリンその他のアルカロイドを含む有毒植物であるからにちがいない。ハミズハナミズはこの花の咲くころには葉がなく、忘れたころになってあらわれるからであろう。
この花が群れて頭をもたげようなら、目のかたきにして、首をはねて回った思い出が、この花にはある。
曼珠沙華あれは必ず鞭うたれ 高浜虚子
「木声花詩」は、書店での入手は難しい書物かも知れないが、小田原市図書館(けやき)にて貸し出し可書物として管理されている。続編と見なしてもよい著書「花とともに」もあるので、併せて愛読されたい。
報告者 森 啓次 (令和2年9月)