江戸時代から明治時代にかけて摺られた「浮世絵」には、かなりの数の小田原を題材にした作品が存在するようです。今回紹介する浮世絵は、そのほんの一部ですが、市販浮世絵の画集などでは紹介されていない作品も多く、まだ皆さんが見たことのない作品も沢山あるのではないかと思います。
この「浮世絵で読む小田原の歴史」は、平成9年度「広報おだわら」8月1日号と10月1日号で紹介した浮世絵と小田原の関係を扱った特集を、さらに多くの作品と故・岩崎宗純さんの解説のもとに作成した、小田原市オリジナルページです。
最も精細なイメージでは、当時の改印(あらためいん:出版を許可する印)や作者の落款(らっかん:作者のサイン)さえも読むことができるような画質で収録しています。
浮世絵に描かれた小田原の歴史を、どうぞ、お楽しみください。
石橋山合戦での佐奈田与一と俣野五郎の組み討ちのシーンは、江戸時代人気を博した題材で、多くの作品が描かれました。ご覧いただければわかるように、作品の構図はどれも似たりよったりです。ですから、武者絵や戦闘シーンとは一見全然関係のないシーンを描いているようでありながら、人物の配置やポーズ、人間関係などを見て、「あ、これは石橋山合戦を下敷きにして描いたものだな」と誰でもわかったようです。それほど、江戸時代には石橋山合戦というテーマは有名だったようです。こうした状況から、石橋山合戦をネタにした一種のパロディ、見立て、焼き直し、なぞらえ、とでもいうべき作品が生まれました。
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江戸時代の旅行者にとって、大きな川というものは不便きわまりないものだったようです。酒匂川も、寒い冬季には仮橋を架けたものの、それ以外の時期は川越人足の肩にのって渡るか、蓮台にのって渡河するしかありませんでした。天気に恵まれず雨が続けばたちまち川は増水し、川を渡ることができるまで宿泊しながら待たなければならないわけです。しかしながら、この不便さによって、小田原と酒匂川の渡しは江戸時代の人々に強く結びついた印象を与え、浮世絵を見てみても、三島のように町並みを描くのでなく、小田原というとまず酒匂川の渡しが描かれ、おまけのように遠景に小田原の城や町並みが描かれるといったケースが多いように思われます。
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小田原という城下町を作ったのは北条氏でした。江戸時代になってからも小田原は重要な軍事拠点の一つだったようですが、ただ小田原城だけを描いたという浮世絵はなく、東海道を行く旅行者や酒匂川の渡し場を渡る旅人の遠景に、あまり正確とはいえないタッチで描かれた天守が見え隠れするといったケースが多いようです。女性は丹精を込めて描いているのに、城の方は全然実物を見ないで描いたのではないかと思われるような英泉の作品があるかと思うと、簡単な筆致ながらリアルな印象が強い、北斎が描いた小田原城(北斎のその作品は「外郎売」のコーナーに登場するので、そちらを参照してください)もあります。旅行ガイド、旅人からのまた聞き、他人の作品の真似、自分で見た記憶・・・いったいどうやって浮世絵に登場する小田原が描かれたのかは、非常に興味深い問題ではないでしょうか?
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小田原の歴史と「黒船」は無関係ではありません。左の作品は浮世絵(木版画)ではなく、アメリカ海軍のペリー提督の遠征記録に添えられたリトグラフですが、ペリーの艦隊から見た「オダワラ湾」を描いた作品なのです。同じ時期に、小田原藩士が浦賀で黒船を観察した記録なども残っています(郷土文化館所蔵)。黒船の描き方や波や山といった自然の描写法が、同じ時代の版画であるにもかかわらず、東洋と西洋で大きな隔たりがあることを観察してみてください。
なお、蛇足ではありますが、アメリカの艦隊を浦賀で接待するために料理を作った人物は小田原の料理名人でした。彼は明治時代に文学者の村井弦斎が小田原で「喰道楽」というグルメ本のはしりを執筆する手助けもしています。ところで、その名人の料理のアメリカ側の評判は、あまり芳しいものではなかったようです。この時代、洋の東西では、味覚も大きく隔たっていたということになりますね。
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小田原に住んでいても、小田原の名物「ういろう」について詳しく知っている人はあまり多くないのではないでしょうか?お菓子のういろうだけでなく、薬のういろうもあるのです。しかし、ういろうは、外郎売として歌舞伎の市川家の十八番の一つとなり、葛飾北斎に浮世絵として描かれ、元禄時代のエンゲルベルト・ケンペルの日本紀行の中でも言及され、また、江戸時代の小田原の町並みを描いた浮世絵の中には、独特の「八棟づくり」の外郎家が描かるなど、小田原名物という範疇をはるかに超えて小田原の歴史の一部となっています。このコーナーでは、その「ういろう」に関する浮世絵作品をご紹介しています。
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【出 典】「浮世絵で読む小田原の歴史」のための書きおろし(オリジナル)
【出版年】平成9年3月31日
【著者名】岩崎宗純・小田原市広報広聴課
【著作権/編集著作権】小田原市 1997-1998
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