婦人科
基本方針
・良性腫瘍(子宮筋腫、卵巣腫瘍、子宮内膜症、内膜ポリープなど)の手術療法については、そのほとんどを侵襲の少ない腹腔鏡下手術・子宮鏡下手術で行っています。症例に応じてさらに侵襲の少ない細径内視鏡なども取り入れています。子宮脱や膀胱瘤などの骨盤臓器脱に対してもより再発の少ない最新の腹腔鏡下手術を行っています。
・地域がん診療連携拠点病院であり、婦人科悪性腫瘍の診断・治療に力を入れています。ほぼ全ての婦人科悪性腫瘍に対応可能であり、手術療法・化学療法(抗がん剤治療)・放射線療法を軸にチーム医療を行っています。抗がん剤治療は日帰り治療がほぼ可能で、手術後のケアや緩和ケアなどにも積極的に取り組み、在宅医療支援も他医療機関と連携しながら行っています。子宮体がん、子宮頸がんに対しては症例に応じて、腹腔鏡手術も積極的に行っております。
・2014年7月より、日本婦人科腫瘍学会専門医制度指定修練施設に認定されています。婦人科がん(子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がんなど)の診断・手術を含めた治療は、婦人科腫瘍専門医が中心となって行っています。日本婦人科腫瘍学会から提示された治療ガイドラインに沿った標準治療を基本としています。病理専門医との定期カンファレンスや、がん専門の認定看護師のサポートなどを通して、高い専門性の中にわかりやすさをもった診療を心がけるとともに、緊急時でも迅速に受診できる、常に患者様に寄り添ったがんの集学的医療を行っています。
・妊孕性を温存する手術や治療にも積極的に取り組んでいます。
・不妊症については、タイミング指導・排卵調節・人工授精までは対応しています。体外受精などが必要な場合は近隣の生殖補助医療技術のある専門施設に御紹介させていただきます。
・すべての検査・診断・治療を行う際には、インフォームドコンセントを重視しています。
・当科には女性医師も在籍していますが、勤務の都合上、診察できないこともあります。
・骨盤臓器脱(子宮脱、膀胱瘤)に対しても安全で再発の少ない腹腔鏡下手術を積極的に行っています。
・腹腔鏡下手術は6日以内の入院(手術前日入院、手術、術後4日目頃退院)としていますが、患者さんの状態に応じて最短3日入院(手術翌日退院)も可能です。
子宮筋腫
子宮筋腫とは
どのような症状がありますか
診断方法は
どのような治療法がありますか
・治療法には手術と薬があります。手術では子宮を取ってしまう(子宮全摘術)のと筋腫だけ取る手術(筋腫核出術)があります。
・将来子供がほしい人では筋腫だけ取る手術を実施しますが、手術の際、出血が多くなるのが難点です。また、筋腫をとる手術をすると、出産の際に帝王切開が必要となる場合があります。子宮筋腫は複数個できることが多く、子宮の表層から見てもわからないような小さな筋腫は手術でも取り残すことになります。そのため数年後には取り残した筋腫がまた大きくなってくることもあります。当院では大部分の手術を腹腔鏡で行っており、お腹の傷は4カ所5-10mm程度のものです。大きさやできた場所によっては腹腔鏡手術が難しいこともあります。
・粘膜下筋腫に対しては、子宮の出口から子宮の中にカメラを挿入して行う子宮鏡という手術方法が適している場合もあります。当院では、子宮鏡での手術も行っており、この手術ではお腹に傷がまったく入らないため、体への負担はさらに軽い手術となりますが、筋腫の大きさは位置により、適応とならない例もあります。
・一方、子宮全摘は、子宮を筋腫ごとすべて摘出するため、子宮筋腫が再発することは通常ありません。毎月の出血や痛みがなくなり、さらに子宮癌の心配もなくなるためその後の長期的な通院治療は通常必要なくなります。卵巣を温存すれば女性ホルモンの分泌は術前と変わりありません。一方で妊娠はできなくなるため、妊娠を今後考えていない人が適応となります。この手術も当院では大部分を腹腔鏡で行っています。
・薬の治療では閉経状態にしてしまう治療(偽閉経療法)が行われます。治療薬には毎日の点鼻薬(鼻からのスプレー剤)と4週間に1回の注射薬の2種類があります。しかし、この治療では女性ホルモンの分泌が少なくなるので更年期様の症状がでたり長期的には骨粗鬆症、心疾患のリスクを上げるため半年以内しか治療できません。また、治療初期には不規則な出血を認めることもあります。治療中は子宮筋腫が小さくなりますが、治療を中止するとまた大きくなってくることが多いです。ですから、筋腫を小さくするために、手術前に一時的に使用するか、閉経に至るまでの一時的治療として行われています。
・その他の治療法として、また、栄養する血管をつめてしまう治療法(子宮動脈塞栓術)があり、子宮筋腫の縮小が期待できますが、正常子宮や卵巣を痛めてしまうことがあり、治療後の妊娠に対する悪影響がある可能性があるため、基本的に今後妊娠を考えてる方には勧められていません。カテーテル治療ですが、子宮が虚血におちいるため、術後の痛みはかなり強いこともあります。
・また、集束超音波装置による治療があり子宮筋腫の縮小が期待できますが、適応が限られるのとその後の妊娠に対する安全性が証明されていないため、やはり基本的に妊娠を今後考えられる方には推奨されないのと、保険適応外のため、費用が自己負担となります。子宮動脈塞栓術と集束超音波装置による治療は当院では行っていません。
治療法 | メリット | デメリット |
子宮筋腫核出 (開腹、腹腔鏡) |
・月経痛改善や過多月経の改善の可能性 ・妊娠率上昇や周産期予後上昇の可能性 |
・子宮筋腫の再発の可能性 ・半年間程度の避妊 ・妊娠時の分娩が帝王切開となる ・症状が改善しないこともある ・万が一子宮筋腫が悪性の場合、癌がお腹の中に広がる可能性 |
子宮粘膜下筋腫摘出 (子宮鏡) |
・月経痛改善や過多月経の改善の可能性 ・妊娠率上昇や周産期予後上昇の可能性 ・腹部に一切傷が入らない |
・適応が粘膜下筋腫のみに限られる ・症状が改善しないこともある ・子宮筋腫の再発の可能性 |
子宮全摘 (開腹、腹腔鏡) |
・月経痛がなくなる ・出血も全くなくなる(卵巣を残せば女性ホルモンの分泌は変わらない) ・筋腫の再発がない ・子宮癌にならなくなる |
・妊娠ができなくなる |
子宮動脈塞栓術 | ・月経痛や過多月経の改善の可能性 ・腹腔鏡手術よりも傷は小さい |
・子宮筋腫の再発の可能性 ・症状が改善しないこともある ・正常子宮や卵巣機能へ悪影響の出る可能性がある。(妊娠は基本的におすすめできない) ・術後の痛みがかなり強いことがある |
GnRHアゴニス | ・一時的に子宮筋腫が縮小する | ・女性ホルモンの低下による更年期症状(長期的な使用で骨粗しょう症や心血管病変のリスクが上昇するため、原則半年以内) ・投与をやめると子宮筋腫はまたすぐに増大する |
子宮内膜症
子宮内膜症とは
・子宮内膜症は女性ホルモンの影響で月経周期に合わせて増殖し、月経時の血液が排出されずにプールされたり、周囲の組織と癒着をおこしてさまざまな痛みをもたらしたりします。また、不妊症の原因にもなります。
内膜症ができるところは
どのような症状がありますか
治療法は
・痛みに対してはまず、鎮痛剤を使用します。効果が得られない時はホルモン量の少ないピル(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬/低用量ピル)を用います。視床下部ホルモンであるGnRHの拮抗剤(アゴニスト)や黄体ホルモン剤などが用いられることもあり、女性ホルモンの分泌を抑えたり直接病巣に作用させたりして症状を緩和させます。
・卵巣の内膜症性のう胞(チョコレートのう胞)などの病巣部がはっきりしている場合は、手術を考慮します。妊娠を望んでいる場合は、病巣部のみを切除して子宮や卵巣の正常部分を残す手術を選択します。妊娠を望まない場合には、病巣のみの摘出に加えて、子宮、卵巣および卵管などを摘出することもあります。子宮内膜症の手術療法では高度の癒着を伴うことも多く、手術の難易度も高いものもありますが、当院では基本的にその大部分を腹腔鏡手術で行っています。
長期の経過観察が必要
日本産婦人科学会HPより(一部改変)
子宮頸がん
子宮頸がんとは
・国内では、毎年約1万人の女性が子宮頸がんにかかり、約3000人が死亡しており、また2000年以後、患者数も死亡率も増加しています。
病気の原因は
子宮頸がんの臨床進行期分類 出典:患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第2版 日本婦人科腫瘍学会編集(金原出版株式会社)
子宮頸がん検診
どんな症状がありますか
子宮頸がんの診断の流れ
どのように治療しますか
(1)前がん病変(高度異形成)・上皮内がん・微小浸潤がん(進行期1A1期)の治療
・妊娠・出産の希望がある場合には子宮を温存する治療として、子宮の入り口付近のみを部分的に切除する子宮頸部円錐切除術を行います。この治療では将来お子さんを生むことが可能ですが、デメリットとして、円錐切除により子宮頸部が短くなって、治療後に妊娠した場合に早産する率が高くなったり、子宮の入り口が狭くなって月経血が外にでにくくなったり、妊娠しにくくなる可能性があります。異形成の場合はレーザーなどで病変部を焼くだけの治療法もあります。一方、子宮を残す希望がない患者さんには、子宮のみの摘出(単純子宮全摘術)が選択されます。当院では現在腹腔鏡でこの手術を行えます。
(2)進行期1A2期から2B期の治療
・がんが目に見える程度の塊となり子宮頸部に留まっているか、子宮周辺の組織に少し広がっている進行期です。治療としては、手術を選択する場合は広汎子宮全摘術(IA2期の場合は、准広汎子宮全摘でもよい)とよばれる子宮頸がんの根治手術を行います。これは子宮に加えて腟の一部、卵巣、子宮周辺の組織やリンパ節を広範囲に摘出します。卵巣は温存することもあります。将来妊娠できるようにしたいという希望が強い場合は、可能であれば子宮頸部とその周囲のみを広範囲に切除して子宮体部を温存する手術(広汎子宮頸部切除術)を行うこともあります。手術療法の後遺症として、排尿感覚が鈍くなって尿が出にくくなる排尿障害や下肢のリンパ浮腫、卵巣機能消失によるホルモン欠落症状などがあり、短期間で改善する場合もありますが、長期に持続する場合もあります。一方、この進行期の患者さんで手術を選択しない場合は、放射線の単独療法や、抗がん剤の点滴と放射線治療を併用する同時化学放射線療法が選択されます。放射線治療の副作用として胃腸障害、下痢、皮膚炎、腸閉塞などがあり、また、抗癌剤の副作用として吐き気の他に血液毒性(好中球減少、貧血、血小板減少)や腎毒性などがあります。また手術をした患者さんにおいても、再発のリスクが高いと判断されるケースでは、術後に放射線治療または化学療法あるいはその併用治療を追加することがあります。
子宮摘出の範囲 出典:患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第2版 日本婦人科腫瘍学会編集(金原出版株式会社)
・がんが子宮を越えて骨盤内や腟に広範囲に広がったり、膀胱や直腸に進展している場合、あるいは肺や肝臓など遠くの臓器に転移している場合は、基本的に手術は選択されず、前述の同時化学放射線療法または放射線や抗がん剤それぞれの単独治療が、患者さんの年齢や体力、全身状態などに合わせて行われます。抗がん剤はシスプラチンという薬が中心ですが、さらに別の抗がん剤を併用したり、最近ではがんへの血管新生を阻害するようなベバシズマブという分子標的薬も使用されるようになりました。また子宮頸がんの再発時も、同様に抗癌剤あるいは放射線治療が中心となりますが、孤立性の病変であれば手術による切除を行うこともあります。進行した症例や再発症例では、痛みや出血などのつらい症状を緩和する治療も行いながらがん全体への治療をすすめます。
子宮体がん
子宮体がんとは
どのような方が子宮体がんになりやすいか
どんな症状がありますか
検査方法は
治療方法は
最後に
日本産婦人科学会HPより(一部改変)