皆春荘表門

皆春荘表門修復・補修探訪記

小田原の宮大工棟梁、芹澤毅さんご協力のもと、令和6年度(2024年度)に皆春荘表門の大規模な修復・補修を進めています。
その作業の過程で、文化政策課職員が実際に芹澤さんの作業場を訪問し、施工について伺った貴重なお話や撮影した作業風景を紹介します。

■ 芹澤 毅 Takeshi Serizawa

芹澤毅さん

宮大工棟梁。文化財修復士。文化財建造物木工技能者。
小田原城天守閣の「平成の大改修」をはじめ、住吉橋の復元・架け替えや銅門の修復など様々な文化財工事を手掛けた。
また、森美術館の展示協力や東京都庭園美術館のイベント出演など、木造建造物を受け継ぐための伝統技術や大工棟梁という職の魅力を伝えるため、活躍の場を広げている。

表門について

皆春荘表門正面
皆春荘表門横
施工直前の様子(令和6年6月12日)
 
皆春荘の表門は、周辺の景観と馴染む山家風の棟門で、虫食い入りの材、竹などを用いた装飾性の高い扉や袖塀を有しています。門の屋根は、京都や奈良の寺社でよく見られるこけら葺きで、関東では珍しい工法です。
板橋地区の歴史的風致を構成する優れた意匠が認められることから、主屋と庭園とともに市の歴史的風致形成建造物に指定されています。

正確な建築年は未だ不明であるものの、主屋と同時期に建てられ、建築から100年以上経っていると考えられます。老朽化は著しく進行しており、全体的に腐朽も目立つほか、袖塀が傾いているなど、保全に支障をきたしていることから、市が平成31年(2019年)2月に皆春荘を取得してから初めて、大規模な修復・補修工事を行うことにしました。
 

 
袖塀
傾いた袖塀

いざ作業場へ

部材
先が傷んだ破風
部材
垂木や柱
 

令和6年7月、芹澤さんの作業場を初めて訪れました。
解体された表門の部材がたくさん並んでいます。
部材は、長年にわたり雨風にさらされたことで、腐食が進んでいましたが、これから修復・補修作業を経て、そのほとんどが元ある場所に据えなおされます。
芹澤さんの手によって、表門がどのように生まれ変わるのか、とても楽しみです。

解体時に出てきたもの

作業場を訪れる前に、とあるものを芹澤さんから預かっていました。袖壁を解体する際に出てきた、明治時代の新聞です。
ほぼ原形をとどめておらず、その量もごくわずかで、記事自体を読むことは困難でしたが、残っている切れ端から、明治41年11月21日(水)に東京の新聞社が刊行したものであることがわかりました。
紙が貴重で、重宝されていた江戸時代の伝統・文化が残る明治期は、新聞紙などの使われなくなった紙をふすまの下地紙などの補修に再利用することがあったそうです。
今回、一部の袖壁にしか見られなかったことや、袖壁の建築過程で新聞紙を入れる事例があまりないこともあり、当時どのような意図で袖壁に挟んだのかは、芹澤さんでもはっきりしないとのことでした。

表門を建てた際に用いられたのか、のちに補修する際に用いられたのかもわからず、建築年の特定には至りませんでしたが、表門に携わった誰かが、東京で刊行された新聞を小田原に持ち込んでいたのは事実です。明治41年当時、清浦奎吾が皆春荘の土地を所有していたことを考えると、彼が購読していたものかもしれません。
また、晩年、皆春荘の近くに住んでいたジャーナリストの長谷川如是閑(にょぜかん)が、若い頃、その新聞社に所属していたようです。出てきた新聞の刊行時期と長谷川氏の所属時期は異なるため、直接的な関係性はありませんが、不思議な縁を感じることとなりました。

 
古新聞
ばらばらになった古新聞

皆春荘の表門といえば

皆春荘の表門の説明をする際に欠かせない工法、こけら葺き。
こけら葺きとは、屋根の覆い方の一種で、木材を薄くした板(こけら板)を何枚も重ねて屋根を覆う工法です。
昔は遠方の材を取り寄せることが難しく、その土地で採取できる材を用いることが多かったことから、伝統的な工法には地域性が見られることがあります。こけら葺きは、京都の鹿苑寺(金閣)や慈照寺(銀閣)など西日本でよく見られる工法で、東日本では比較的珍しいものです。
表門を建築した当時、小田原にいる職人がその技術を有していることはあまり考えられないが、関係者に詳しい人がおり、その工法をあえて使ったのではないか、また、西日本の優れた文化を取り入れることで権威を示したかった可能性もあると、芹澤さんはおっしゃっていました。
皆春荘は、清浦奎吾と山縣有朋という二人の政治家ゆかりの邸宅ですが、そのような話を聞くと、二人が過去、京都に別邸を構えていたことがふと頭に思い浮かびます。
表門の山家風の砕けた佇まいに、社寺建築によくある精緻なこけら葺きを使うこと、珍しい工法を取り入れることに、自らの文化的素養を表現するという意味があったかもしれないと思うと、今後するであろう表門の説明にもますます気合いが入りそうです。

 
屋根
修復前の朽ち果てたこけら葺き

つづく

伝統建築工匠の技・皆春荘表門補修ワークショップを開催しました

令和6年11月17日(日)に、伝統建築工匠の技・皆春荘表門補修ワークショップを開催しました。
講師に芹澤さんをお招きし、建築学を専攻する学生や市民等27名が、皆春荘表門の修復・補修に必要な日本の伝統建築技術を学びました。
また、屋根葺き工事を専門とする児島工務店(岡山県岡山市北区)ご協力のもと、職人からこけら葺きに必要なへぎ板制作やモックアップを使った竹釘打ちのレクチャーを受け、体験しました。

〈当日の様子は、後日更新します!〉

ワークショップチラシ

もっと知りたい方へ

皆春荘の概要や公開情報を紹介しています。 芹澤さんが携わった住吉橋の復元・架け替え当時の様子を紹介しています。 市が運営するWEBマガジン『オダワラボ』にて、芹澤さんと経済学者の井手英策さんが対談した様子を紹介しています。 芹澤さんも受け継ぐ、令和2年(2020年)ユネスコ無形文化遺産に登録された『伝統建築工匠の技:木造建築物を受け継ぐための伝統技術』を紹介しています。 造園・土木工事を専門とする会社です。この度、庭園整備工事を実施いただいているほか、ワークショップにご協力いただきました。 歴史的建造物の保存・活用のための研究調査、設計等を専門とする会社です。この度、皆春荘の庭園調査や工事設計・監理を実施いただいているほか、ワークショップにご協力いただきました。 屋根葺き工事を専門とする会社です。この度、表門のこけら葺き工事を実施いただいたほか、ワークショップにご協力いただきました。​​​​​​

この情報に関するお問い合わせ先

文化部:文化政策課 文化政策係

電話番号:0465-33-1707

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