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2018年02月28日(水)

「文楽」と「相模人形芝居」

3月11日の「文楽」公演のポスター3月11日の「文楽」公演のポスター小田原市の古典芸能上演企画として、一昨年、昨年と「松竹大歌舞伎」が上演されましたが、平成29年度は3月11日に小田原市民会館で、人形浄瑠璃「文楽」の公演が予定されています。その公演に向けて、様々な準備講座が開催されてきました。今回は、文楽公演に向けて実施された催しをレポートします。


1.伝統芸能体験講座「人形浄瑠璃」

体験講座「人形浄瑠璃」のポスター体験講座「人形浄瑠璃」のポスターまず、平成29年12月20日に伝統芸能体験講座「人形浄瑠璃」が小田原市民会館小ホールで開催されました。人形浄瑠璃は、いわゆる「文楽」と呼ばれる人形芝居です。この講座は、古典芸能に接する機会が少ない方たちに、プロの人形遣いによる本物の人形劇を観てもらおうとする試みでした。ただ観るだけでなく、人形遣いを体験する機会も設けられている体験講座となっています。28年度にも実施され、前回の講座で講師をされた文楽人形遣いの吉田幸助さんが、今回の講座でも講師を務められました。

吉田幸助さんによる文楽の解説吉田幸助さんによる文楽の解説「文楽」は、明治時代に大阪で人形浄瑠璃を上演していた「文楽座」の名に拠っており、人形浄瑠璃の代名詞となりました。人形浄瑠璃は、「人形遣い」の三人が人形を操りながら物語を演じていくものですが、人形遣いには高度な技術が求められます。吉田さんは、文楽の人形を操ることについて、「人形が人間以上に人間らしく」見えるようになる修業の積み重ねと話されました。

人形は3人で遣います人形は3人で遣います文楽の舞台上の人形は着物を着ていますから、身体がどのようにできているかを伺い知ることはできません。この講座では、着物を付けずに裸の状態で人形を操って、人形の頭、手足の動きを分り易く実演してくれました。人形は、「主遣い(おもづかい)」「左遣い(ひだりづかい)」「足遣い(あしづかい)」の三人で操ります。それぞれ、頭(かしら)と右手、左手、足を分担します。三人が呼吸を合わせて、頭手足が一体感ある動きにならなければ、すぐに手足バラバラに見えてしまいます。そして、胴体がほとんどない状態で、身体全体のバランスを取らなければならないのも難しい技でしょう。
 

娘に言い寄られます娘に言い寄られます人形の動きの解説が終わると、いよいよ体験コーナーです。男性の観客が舞台に上がって、人形の相手役を務めました。人形は綺麗な着物を着た娘です。男に迫る仕草は、恥じらいながらも大胆な行動を辞さない恋する娘そのものでした。娘に言い寄られると、モデルの男性は困ったような顔をして固まってしまい、客席の笑いを誘っていました。それだけ、人形の動きが内面を表しているのでしょう。

子どもの人形操り体験子どもの人形操り体験最後は、子どもが人形遣いを体験するコーナーでした。小学生の男の子が舞台前に出てきて、人形の主遣いを体験しました。着物を着た人形は重く、子どもの力では頭(かしら)を支えるだけで精一杯だったでしょう。それでも、吉田さんの指導のもとで頭(かしら)を動かすことができて、吉田さんから拍手をもらいました。
体験コーナーは時間が限られて、参加した観客全員が人形に触れることはできません。それでも、見ているだけで人形遣いの技は一朝一夕で身に付くものではないことが理解できました。3月の文楽の本番舞台では、この講座によって人形の動きを見る目が違っていることでしょう。


2.文化セミナー「人形浄瑠璃の歴史と相模人形芝居」

講師の平野英俊氏と林美禰子氏講師の平野英俊氏と林美禰子氏年が明けて、1月21日に第15回文化セミナーが、市民会館小ホールで開催されました。これも3月の文楽公演に関連して、「人形浄瑠璃の歴史と相模人形芝居 ~地域に受け継がれた伝統と技~」と云うテーマでした。

平野英俊氏の講演平野英俊氏の講演講師は、舞踊評論家の平野英俊氏と小田原民俗芸能保存協会副会長の林美禰子氏でした。平野氏は、㈳全国公立文化施設協会アドバイザーで、伝統芸能全般を担当している方です。平野氏の講演は、日本の地域の伝統芸能がハレ(非日常)という年中行事や祭りとケ(日常)という生活の中で習い事や遊びがあったとの話から始まりました。そして、日本の操り人形芝居の歴史と全国分布について解説されました。更に、ことばの意味や言霊(ことだま)、和歌などの歌文化、三味線の系統図など、奥深い日本文化の歴史に言及され、人形芝居とは、人形遣いの「実」と人形の「虚」が、神の降りてくる舞台で演じられる神仏の世界であると説明されました。

林美禰子氏の講演林美禰子氏の講演林氏は、大学時代から相模人形芝居の研究に取り組まれ、相模人形芝居のテキスト化を実現されました。現在は小田原の小竹地区で活動する下中座の座長をはじめ、小中学校のクラブの指導や神奈川県民俗芸能保存協会理事として伝統芸能の保存と継承に奔走されています。林氏の講演では、下中座の歴史、学校教育の場で伝統芸能の魅力を伝える取り組みについて語られました。そして、平成14年には橘中学校の相模人形クラブ創設のために「坂田金時 怪童丸物語」と云う新作を制作し、その後シリーズ化して中高生たちに指導されています。また、下中座では「曽我物語 大雄山の段」の制作中で、上演に向けて準備を着々と進められています。

髪結いの実演髪結いの実演お二人の講演の後、下中座のメンバーによる髪結いの実演がありました。人の髪のように丁寧に結い上げますから技術が必要で、時間もかかります。結い上げた後、簪(かんざし)を一本引き抜くと、パラリと一瞬にして結いが解けたのには驚きました。舞台で喝采される技の一つと云えましょう。

ロビーの下中座関連展示コーナーロビーの下中座関連展示コーナーロビーには下中座の資料や人形が展示されて、下中座の歴史を辿ることができました。
文化セミナーのお二人のご講演を拝聴して、人形芝居の長い歴史とその思想的背景を知ることができたことと、日本各地に残る人形芝居が多くの地域の人々のご努力によって継承され続けてきたことを知ることができました。


3.文楽プレセミナー

文楽プレセミナーのちらし文楽プレセミナーのちらし2月4日は市民会館小ホールで、おなじみの葛西聖司氏による、古典芸能のプレセミナーが開催されました。今回は、もちろん文楽の話でした。
会場は、椅子が向かい合わせに置かれています。真ん中の通路を葛西さんは行ったり来たりしながら話をしました。時には、席に一緒に座って観客に語り掛けます。話術の達人・葛西さんのお話は、とにかく面白いです。よどみない話につい引き込まれてしまって、写真撮影も忘れてしまうほどでした。

白板で人間関係を説明する葛西さん白板で人間関係を説明する葛西さん3月11日に予定されている「文楽」公演は、昼の部、夜の部の二部構成です。昼の部は「桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)」、夜の部は「曽根崎心中(そねざきしんじゅう)」です。葛西さんは、登場する人物の人間関係を白板で説明します。この関係図を知っているか知らないかで、舞台の見る目が違ってきます。前妻の子を後妻と連れ子がいじめているんだな、などと、それぞれの場面の意味がよく分ります。

参加者と一緒に筋書きを読む参加者と一緒に筋書きを読むそして、配付された筋書きを会場の皆さんと一緒に声を出して読み上げました。古典芸能は、筋書きを目で追うのではなく、耳から聴かなければならない、と葛西さんは語られます。劇は会話ですから、その会話のやり取りを自分で声に出して聞くのです。現代では「黙読」が普通ですが、昔は「論語」など声を出して読む「音読」があたりまえでした。実際に声を出して筋書きを読むと、役者の気持ちに近づくような気がしてくるのが不思議です。

葛西さんの巧みな話術葛西さんの巧みな話術題名にある「連理(れんり)」とは、一本の木の枝が他の木の枝について、同じ木のように木目が同じになるほど通じあっていることで、夫婦・男女の間の深い契りをたとえて言います。
信濃屋の14歳の「お半」は信濃屋の娘で、隣の帯屋の主人「長右衛門」は25歳も離れていますが、思わぬ出来事で契りを結びます。ところが、長右衛門は武家屋敷から預かった刀をすり替えられて進退窮まり、更にお半の懐妊を知って、遂にお半と桂川で心中してしまいます。「柵」は「しがらみ」と読み、川の流れを堰き止めるものですが、転じて、じゃまをするものの意味があります。二人は、連理のように絡み合い、じゃまを受けて因果の果てに桂川で心中してしまうのです。

「曽根崎心中」は、浄瑠璃作家・近松門左衛門の代表作として有名です。天満屋の女郎「初(はつ)」と醤油屋平野屋の手代「徳兵衛(とくべえ)」は恋仲でしたが、奉公先の叔父が勝手に自分の娘と結婚させようとして結納金を徳兵衛の義母に渡してしまいます。ようやく取り戻した金を今度は親友・九平次に貸しますが、裏切られてしまいます。金が返せないと覚悟を決めた徳兵衛とお初は、曽根崎の露天神の森で心中してしまうのです。
徳兵衛がお初の所へ忍んで行く場面、金を横取りした九平次がお初の客として来ます。縁の下に隠れた徳兵衛にお初が足を出すと、徳兵衛が足を押し戴きます。文楽の女形(女性)の人形には、通常足はありません。それがこの場面では、着物の裾からそっと白い足が出てくる、と葛西さんは解説してくれました。曽根崎心中の見どころもよく分ったプレセミナーでした。


4.相模人形芝居大会

相模人形芝居大会ちらし相模人形芝居大会ちらし2月12日に横浜で、「第45回相模人形芝居大会」が開催されました。事前に往復はがきで申し込まなければならないのですが、幸い当選して見に行くことができました。
日本の代表的伝統芸能である人形浄瑠璃は、阿波、淡路、佐渡など全国各地にあります。神奈川県西部にも「相模人形芝居」と呼ばれる人形浄瑠璃が伝わっています。江戸時代末頃には相模川や酒匂川沿いの15ヶ所に人形座があったそうです。その中で、長谷座・林座(厚木市)、下中座(小田原市)、前鳥座(平塚市)、足柄座(南足柄市)の五座が、国や県の重要無形民俗文化財に指定されて今も活動しています。
「相模人形芝居大会」は、五座が一堂に会する年に一度の機会です。会場の神奈川県立青少年センターのホールは、満席の大盛況でした。申し込んでも落選する方もいたそうですから大
人気の大会です。

大谷津早苗先生の人形芝居の解説大谷津早苗先生の人形芝居の解説一番手は、前鳥座の「鎌倉三代記 三浦の別れの段」です。前鳥座は、平塚市四之宮地区に江戸時代中期から伝わる人形芝居です。
幕間(まくあい)には、昭和女子大学人間文化学部歴史文化学科の大谷津早苗教授の「人形芝居教室」が行われ、相模国各地域の人形芝居の歴史と人形の紹介をされました。また、人形遣いが、人形を持って客席を回り、間近で人形と触れ合いました。

客席で人形を紹介客席で人形を紹介引き続き、四座の公演がありました。厚木市の林座は「御所桜堀川夜討 弁慶上使の段」、小田原の下中座は「生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)宿屋から大井川の段」、足柄座は「壷坂観音霊験記 山の段」、長谷座は「伊達娘恋緋鹿子 火の見櫓の段」を上演しました。

下中座:生写朝顔話 宿屋から大井川の段下中座:生写朝顔話 宿屋から大井川の段小田原の下中座は、言い伝えでは、江戸時代中期・正徳年間に関西から江戸へ行く人形遣いが、現在の小田原市の東端にある小竹の村人へ伝えたのが始まりで、「小竹の人形」と呼ばれていたそうです。「生写朝顔話 宿屋から大井川の段」は、二幕の長い演目です。深雪(みゆき)が琴を弾く場面では、琴を爪弾く指使いまで繊細に表現していました。更に、今会ったのが恋人であったと知った場面では、髪を振り乱し、帯を解くほど心乱れる姿を見事に演じていました。五座でも屈指の実力と云えましょう。

伊達娘恋緋鹿子 火見櫓の段伊達娘恋緋鹿子 火見櫓の段また、最後の長谷座の「伊達娘恋緋鹿子 火見櫓の段」では、人形が火の見櫓に上るという離れ業を演じていました。五座それぞれが持ち味を出して、見応えある舞台でした。

相模人形芝居の人形は、文楽の人形よりも小ぶりな頭(かしら)が特徴となっています。下中座は、そのような頭を五座最大数の九十二個も保有しています。人形の操法は文楽と同じ「三人遣い」ですが、文楽と異なる操法の特徴は「鉄砲ざし」の構えです。人形を前に傾ける構えが、鉄砲を構える姿に似ていることから呼ばれました。そして、江戸の人形浄瑠璃の遣い方である「江戸系人形操法」を全国唯一今に伝えています。このように、江戸と大阪を結ぶ東海道上にあった小田原の人形芝居は、江戸と上方の双方と深い縁で結ばれてきたと云えましょう。

かつて、日本各地に人形浄瑠璃の座がありました。そのことからも、人形浄瑠璃は庶民が楽しんだ身近な娯楽であったことが分かります。下中座の人形芝居は、3月、4月にも上演されます。地元の相模人形芝居も文楽公演と併せてご鑑賞いただき、文楽との違いを観るのも興味深いことでしょう。この度の文楽公演が、小田原の相模人形芝居の未来に繋がる機会となることを期待したいと思います。本レポートが、文楽鑑賞の多少のご参考になればと思います。(深野 彰 記)

2018/02/28 14:27 | 伝統芸能


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