
インタビューvol.1
小さな単位でまちを捉えて資源を見つけ出し、実装・体験で伝えたい
令和5年(2023年)から、UDCODの活動として西海子小路周辺地区のまちづくり支援に取り組む、東海大学建築都市学部 講師 野口 直人さん。
専門は、建築の設計・デザイン。研究室では、建築を中心に地域のデザイン、家具のデザイン、展示のデザインなど、さまざまなデザイン活動に取り組んでいます。「体験」を大切にし「新しいデザインをと言っているだけでは……結局体験しないとわからない」という野口さんに、西海子での取り組みについて伺いました。

野口 直人さん(撮影場所:小田原文学館)
小田原との出会い、UDCOD参画のきっかけは?
きっかけは板橋
出身は海老名市なので、小田原には、割と近い観光地として子どもの頃から来ていました。小田原城の遊園地にも行ったし、お城にも登った記憶があります。プライベートでは、子どもの頃から馴染みのあるまちですね。
それから、大学生の時に、小田原の板橋地区にある古い蔵を活用してカフェを設計するという課題がありました。蔵の使い方を考える課題なのに、蔵を徐々に壊す提案をしてしまったんですよ。歴史の先生にはボロボロに言われました。笑
古いものをそのまま保存するのではなくて、違った見方をしてみるというのは、今も考え方のベースにあるかもしれません。
東海大学の講師となってからは、授業のテーマで板橋地区を取り上げたんです。
令和4年度(2022年度)に、小沢朝江先生の大学院の授業で歴史的な視点から都市を見てリサーチやフィールドワークをして、それを僕の授業課題「生業の痕跡から考えるまちの新しい使い方」で素材として受け取って、どんな建築的な提案ができるかという授業をしました。
この時まとめた冊子を小沢先生が小田原の関係者に配ってくれたことが、UDCODに関わることにつながっていったのかもしれませんね。

東海大学大学院の授業で作成した、板橋地区の分析や提案をまとめた冊子
アーバンデザインの視点から捉えた、西海子小路周辺地区の魅力や特徴は?
小さい単位でまちを見る
UDCODでは、まちづくりの相談があるからちょっと話を聞いてもらえないか……ということで、西海子小路周辺地区に関わることになりました。
まず、西海子という名前が面白くて興味を持ちました。どのまちに関わるときも、実際に現地に来る前は何もなさそうだなって思うんです。でも、どこにでも面白さや独自性、すごくマニアックな文化などを見つけられるんです。市単位での文化の紹介からは漏れてしまうような、マニアックな文化にわくわくします。
小さい単位でまちを見ると、必ず特徴があります。おそらく、最も人が把握しやすい環境の単位ではないかと思っています。半径何メートルなど数値で語られることが多いですが、僕は肌感覚でとらえています。西海子地区でいうと西海子小路を中心に国道1号から海までの範囲。親がギリギリ心配しないで子どもを遊びに行かせることができるくらいかな。その範囲の中でいろいろなものを見ていったら、西海子はとても色鮮やかでした。
「通り抜け」は西海子の魅力の一つ
僕は郊外住宅地出身です。親が30代くらいで引っ越してきて、子どもたちがみんな同じくらいの年齢。新興住宅地でコミュニティは全くない状態。お祭りはあったけれど、子ども神輿とか無理やりつくった感じ。子ども会もつくられましたが、1世代で解散しています。それが当たり前だと思っていましたが、西海子には、3世代4世代と続く根付いたものがあります。どんど焼きには必ずお団子を持ってくるとか、日本人が頭の中で想像する地域コミュニティが続いています。すごいことだと思います。
すぐ近くにこの文学館のような場所があることも、普通ちょっと信じられないですよ。
文学館は、西海子公園という名前の公園でもあるということなのですが、普通に公園を整備したらこうはならないですよね。うまく環境を読み替えるというのが、無意識にできているのだと思います。公園だから自由に入って来ることができる。そして、通り抜けができます。西海子には他にも、通り抜けができる場所や抜け道のような路地があります。地域住民のみなさんが、これを特徴と思っていないところがいいんでしょうね。当たり前にある、習慣として通り抜けている感じです。
通り抜けができないと行き止まりの空間になってしまい、人が入ってこなくなります。「便利だから使う」でいいと思います。通り抜けが寄り道につながり、まちを味わう歩き方をさせます。目的がないと行かないというのは、まちとして多様性に欠けるというか、もったいないですね。「通り抜け」って奥深いと思います。
2つの顔を持つことと余白があること
「文学館であり、公園でもある」「見慣れたまちかどが、祭りの時には全く違う使い方をされる」といったように、1つの場所に2つの顔があることも重要です。文学館を例にすると、文学館として訪れる人だけでなく公園として訪れる人もいる。それによって、その場所の「敷居が下がる」(関わる人が増える、関わりやすくなる)と考えています。
2つの顔を持つためには、まちの中の余白(建物が立っていない部分)があることが重要です。西海子には余白が多く残されていますが、その余白が舗装されず地面がむき出しになっていることも、面白いです。
西海子のゆるさ
西海子には、ガチガチではない「ゆるさ」みたいなものも感じています。
以前インタビューをさせていただいた、80~90代のおばあちゃんが「昔はお屋敷の庭に忍び込んで遊んでいた」とお話しされていました。そういった「ゆるさ」が、今も違った形で残っていると思います。
例えば、住宅の塀やフェンスが少なかったり、共同で駐車場を持っていたり。もちろん防犯対策は必要ですが、私有地に対する意識の、いい意味でのゆるさを、デザインに上手く組み込んでいけたら面白くなりそうだなと考えています。
でも、建築ってある意味線を引くことなんです。壁の位置とか、内と外とか、ルールとか。デザインは境界をつくってしまいます。そこをどう弱くしていくかを建築の人は常に考えています。
僕は、猫みたいにまちを歩けたら面白いと思っていて、どこでも入り込んで塀を乗り越えたりくぐったり。おそらく、猫が認識しているまちと、人間が認識しているまちは全然違っているのではないでしょうか。今まで出会わなかったものに出会えそうな気がします。
子どもたちは、猫に近いことができるのではないかと思い、令和6年度の取り組みの中で、子どもたちにまちの中の宝物探しをしてもらいました。

子どもたちに、まちの宝物を探してもらった企画「西海子探検隊」(令和6年8月)
西海子では、今後どんなことに挑戦したいですか?
市民のみなさんがまちづくりのキャスト
令和6年度の取り組みを通して、短期間でも規模が小さくても実装することには価値があると実感しました。
これからの取り組みでは、冊子「西海子の帰路ver.2」で提案した地域デザイン指標を、体験してもらえるようなことがしたいですね。
3月15日に開催した「西海子の帰路展」で展示した、西海子の日常と非日常を交互に紹介する動画を、地域の皆さんが「私が写っている」とすごく喜んでくれました。展示を自分ごとと思ってくれたんです。
それを見て、まちづくりとか地域デザインというと、なんだか全然違うレベルで上から考えているように思われがちなので、地域の皆さんがまちづくりの物語のキャストになるようなことをできたらと考えています。
野口 直人(のぐち なおと)
東海大学建築都市学部 講師
海老名市出身。2004年に東海大学工学部建築学科卒業。2006年に横浜国立大学大学院修了。2006年に妹島和世氏率いる建築設計事務所SANAA(サナー)に入社。2012年に退社し独立後、横浜国立大学大学院 Y-GSA 設計助手、同大非常勤講師などを経て、現在、母校の東海大学建築都市学部で教鞭をとる。
この情報に関するお問い合わせ先
都市部:都市政策課 都市デザイン係(UDCOD事務局)
電話番号:0465-33-1758