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2024年10月23日(水)

10匹の猫は何を語るのか 

10匹の猫は何を語るのか
▶「親子猫」は柴田とみ子さん(一般)の作品。ハチワレの母猫にサバシロの子猫が眼を閉じて甘えかかっている。遠くを見つめる母猫の眼は我が子の将来をみている。背景の石垣から小田原城に住む野良たちか。そういえば、小田原城の花菖蒲園の茂みに白い猫が住んでいる。散歩に通る人にはなじみのようだ。アート・ポエム賞。
▶「春の庭」、下林友子さん(会友)の日本画。大きな空間が春の庭の暖かさを表す。春の猫は季語にもなっている。もっとも猫の恋の子季語だから、春の庭で寝ている猫ではないだろう。チャシロは春の蝶の幻を追っているのか、眼を開けたまま現(うつつ)の表情だ。
▶中村かよ子さん(会員)の作品「リーダー」、3匹のハチワレが寄り添っている。おそらく兄弟猫だろう。しかし、この作品はモチーフの猫というより絵として楽しむものかもしれない。透明感のある青に輝くような薄紫。3匹の猫の表情が絵にリズムを添えている。
▶最高賞の西相美術協会賞は小泉和江さん(一般)の「目覚めた魂に乾杯」。大きなキャンバスいっぱいに、薔薇の花、ガラス瓶、やかん、時計、腎臓の断面、黄色いボール、ワインの入ったグラス、それにショートヘアの猫が構成されている。猫のちょっと振り返った姿勢とクリアな眼に作家の想いが集約されている。精緻に描かれた具象の猫が画面を引き締める。
▶教育委員会賞の川邊歩さん(一般)、「海と宇宙の円舞曲」にも猫がいる。タツノオトシゴ、タコ、ヒトデ、ウツボ、カエル、それにUFOが躍る金色のロンドのなかに身を乗り出したシロネコが加わっている。海にも空にも住まない地上の生き物であるはずのシロネコがここにいるのはなぜか。そこにも猫の不思議な存在がある。
▶「回想」は飯沼重信さん(会員)の作品。二人の女性の思うことはそれぞれ違うのか、互いに異なる方向を見つめている。足元の薔薇は女性たちの過去、見上げるハチワレは現実を象徴している。図らずも「ロンド」も「回想」も女性と猫で構成されている。絵における猫と女性との関係をそれぞれ想像してみるのも面白い。
▶3人の遊ぶ子供たちに交じるのは猫の仮面。ちょっと怖い。宮沢賢治の世界にいるようだ。それぞれの指先の表情で個性と会話が伝わってくる。ブルーとオレンジのコントラストが構図を引き締めている。古谷和子さん(会員)の作品。
▶せっかくなので、ネコ科の親戚も紹介する。親子のライオンを描いた山口花音さん(高校生の部)の作品。親子のライオンが頬を寄せ合っている。タイトルは「尊」。ミコトと読むかタケルと読むか分からないが、竜胆尊、尊富士、日本武尊、世代によって連想することはそれぞれだろう。
猫は画家と鑑賞者の想いの投影
■10匹と2頭は何を語るのか。猫をモチーフにした作品は多い。なぜ作家はここに猫を描きたかったのか。猫かネコか、猫は動物をイメージし、ネコと書くと含意が生まれる(分類学ではネコというらしいが)。ネコを描くことによって、模糊とした作家の感情を明らかにしないまま集約することができるのかもしれない。いっぽう、鑑賞者にとって、ネコの存在より曖昧に抱いていた感情が研ぎ澄まされるのか。しかしながら、必ずしも作家と鑑賞者の間の共感があるとは言えないだろう。それぞれの異なる思いを“両側から“ネコに投影しているだけだ。ネコにとっても負担の多いことだ。キャンバスに描かれたネコたちは、それぞれ主役であったり脇役であったりする。しかし、絵の上で脇役であっても、作品としては主役を演じている。なお、このレポートはレポーターの感じたところであって、作家の制作意図を正しく捉えているわけではないことをお断りしておく。
1931年の第1回から88回を数える
■西相展は、1931年(昭和6年)に平塚で開催された第1回相州美術会展から今年で88回を数える歴史をもっている。1933年(昭和8年)の第2回展覧会からは、開催地を小田原に移し小学校の講堂などで開催してきている。太平洋戦争の混乱期を経て、戦後は1946年(昭和21年)の第12回展となる公募展をもって再開された。その後、相州美術会は1952年(昭和27年)の小田原美術会との合併によって西相美術協会として新たに発足し、相州美術会展は西相美術展(西相展)として旧市民会館で、2021年(令和3年)からは三の丸ホールにおいて毎年秋に開催をしている。西相展の開催時は公募から受付・審査・陳列・目録など運営をすべて行っているという。なお、今回の2024年第88回西相展は、10月2日から6日まで三の丸ホール展示室で開催され、洋画、日本画、彫塑を併せ、会員・会友64点、一般42点、高校生の部5校24点、合計130点の出品であった(作品一覧表から)。 

記:ゆきぐま

2024/10/23 18:08 | 美術

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