最終更新日:2024年03月01日
「うたの生まれるまち 小田原」
海と山の豊かな自然に恵まれ、歴史と文化がまちに息づく小田原。
日常から離れて小さな発見や気付きのある旅。
旅のなかで心に留めるもの、心に浮かぶもの。
結晶のような旅の瞬間を携えていくひとつの物語をお届けします。
歌人が実際に小田原に訪れて書き下ろした「短歌」を添えて。
歌人:川野 芽生
location :
長興山紹太寺
輝ける腕(かひな)あまたを差し伸べて天は千年の春のうちなり
⻑興⼭紹太寺の枝垂れ桜が咲いている光景を想像して、垂れ落ちる花枝を、天から差し伸べられる無数の腕に⾒⽴て、畏怖を感じさせるような幻想的な光景を詠みました。
天界での季節のめぐりは地上とは異なっていて、千年続く春の中にいるかもしれません。
長興山紹太寺(しだれ桜)
location :
小田原城址公園
咲くことを樹々は厭わず散ることを惜しまずいかな春は来るとも
⼩⽥原城址公園にて、桜はまだ咲いていなかったのですが、沢⼭の巨⽊を⽬にしました。
何百年も⽣きる樹々と、何百年もの⼩⽥原の歴史が重なって⾒えました。
⼈は花が儚く散ることを惜しみますが、花咲く前の無⾻な樹々を⾒ていると、何度でも惜しみなく咲いては散る桜のエネルギーが感じられました。
location :オーランジェ・ガルデン
夢の記憶ひとつを取り戻すやうに掌に亨けたりき柑橘⼀顆
オーランジェ・ガルデンでのオレンジ狩りを想像して詠みました。
持ち重りのするオレンジを掌に載せたときの充実感とちょっとノスタルジックな感触は、⾒たことすら忘れていた夢の記憶を取り戻すのに似ているかもしれません。
location : 長興山紹太寺
糠星の産地とおもふ苔⽣(む)して天のおもさを⽀へる腕は
⻑興⼭紹太寺の枝垂れ桜を訪れて詠んだ歌です。
広がった枝が空を⽀えているようで、枝を覆う⽩い花は無数の星のように⾒えました。
空に散る星々はここから⽣まれているのではないかと思いました。
location : 小田原城址公園
転⽣をかさねひとみなひとたびはこのはなびらのひとひらなりき
⼩⽥原城址公園にて、天守閣を背景にして桜の花を⾒ました。
歴史の中で繰り返される⼈の営みを思いながら桜を⾒たとき、花びらはこんなに無数にあるのだから、⼈が⽣まれ変わるなら⼀度は花びらに⽣まれているだろうとふと思いました。
縄を綯ふやうにおのれを捩(よじ)りつつ⼤樹は天をあきらめきれず(- 小田原城址公園)
⼩⽥原城址公園内常盤⽊⾨前のイヌマキの巨⽊が⼼に残りました。
ねじれながら伸びていく幹はまるで天へと攀じ登ろうと懸命にあがいているように⾒えました。
「攀じ登る」 という⾔葉の中には「捩る」という⾔葉も響いているように思えます。
海に向き列⾞の扉いつせいに開くとき海もまぶた開きぬ (- 根府川駅)
駅からすぐに海が望める根府川駅。
逆に、海が意識を持っていて駅を⾒ていたら、電⾞が繰り返しやって来ては⽌まるさまはどのように⾒えるだろう、海と電⾞の間に親しみや、かすかな呼応のようなものが⽣まれてはいないだろうかと思いました。
⽇のひかり傾(かたぶ)くかたへ差し延ぶる⼿に⻩⾦(きん)いろの蜜柑のこりぬ(- オーランジェ・ガルデン)
オーランジェ・ガルデンでの蜜柑狩りを詠みました。
海が⾒える果樹園で、たわわに実った蜜柑が陽光に照り映え、光が形になったかのようでした。
暮れ⽅の近付くなかで蜜柑を採る光景を、陽の光が消えて蜜柑に変わると⾒⽴てました。
ここでしか聞けない制作への思い、作品のビハインドストーリーや25分のショートフィルムVerも公開中
電話番号:0465-33-1521