観光トピックス


「うたの生まれるまち 小田原」

海と山の豊かな自然に恵まれ、歴史と文化がまちに息づく小田原。

日常から離れて小さな発見や気付きのある旅。

旅のなかで心に留めるもの、心に浮かぶもの。

結晶のような旅の瞬間を携えていくひとつの物語をお届けします。

歌人が実際に小田原に訪れて書き下ろした「短歌」を添えて。

 

歌人:服部 真里子

あらすじ

夏日が照り返す相模湾。
小田原の海鮮や甘味を堪能する伊吹と隆平。
子供の頃と好物が変わっている伊吹と変わっていない隆平。
家族だから知るお互いの好物を話しながら次第に距離が縮まっていく。
夜に立ち寄った料理店で隆平は伊吹と初めて飲み交わす。
独り立ちした伊吹に母の面影を見出して涙がこぼれる隆平。
伊吹は父の苦労を想いながらカメラを手に取り隆平の姿を撮る。
店員の手を借りて伊吹は秘密箱の中身を知る。

ロケ地 / 短歌

location : だるま料理店

短歌

食べ物を景色のように嵌めてゆく静かな窓をわたしと呼んだ

歌人からの一言

窓の向こうには松があり、松とテーブルを挟んで向きあう形で食事をしました。

風のない夕方で、私が口を動かす間も、松はガラスの向こうで微動だにしません。
食事が進むにつれ、松と私の内部で何かがゆっくりと変質していき、ついには窓を一枚へだてて完全に等価なものになったような感覚がありました。
松にとって人間は、ほんのいっとき窓に嵌まっては流れてゆく、景色のようなものなのかもしれない。
私にとっての食べ物のように。

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location :
小田原あんこ(柳屋ベーカリー)

短歌

つぶあんが身体の奥にひらかせるつやつやとした夜の黒目たち 

歌人からの一言

小田原あんこの詰まったあんぱんを手にしたとき、はっと店員さんの顔を見て、「あたたかい」と口にしてしまいました。
そして重かった。
有機的な重さでした。
割ってみるとつぶあんで、餡の中にはところどころ、つやっとした豆の皮が動物の黒目のようにかがやいていました。

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短歌

夢は肉で見るものくるしく夢見ては虹色にしずくして貝肉は

歌人からの一言

焼き網の上に貝柱を載せていると、表面に透きとおった汁がうっすらと浮かびあがってきます。
黙ってこちらの話を聞いていた人の目に、やがて涙がにじんでくる様子にも似ていました。
蜃気楼は貝の見る夢といいます。
夢はかたちを持たず、さわれもしないけれど、まぎれもなく肉体で見るものだなあと思うと不思議な感じがします。
この小さな肉片が、海上に幻の建造物を生み出すときの、莫大な負荷を思いました。

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location : だるま料理店

短歌

天気雨 眠ろうわたしと天国の間に薄い紙をはさんで

歌人からの一言

明治二十六年創業のこのお店には、代々冠婚葬祭はここでというお客さんもいらっしゃるそうです。
この間の結婚式のとき、あそこで泣いていたおばあちゃんの、今日はお葬式か……といったこともあるかもしれません。
そんなとき、障子紙のあかるさに包まれたこの部屋が、今はもういない人を近しいものにしてくれると思うのです。
天国は遠い空の彼方ではなく、私たちのすぐそば、薄い紙を一枚はさんだ向こうにある。
そう感じさせるお店でした。

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location :
小田原あんこ(柳屋ベーカリー)

短歌

一塊の餡を深みへ落としつつ身体よながい眠りのふくろ

歌人からの一言

甘いものには心身を緩める効果があり、だから緊張した後や疲れているときなど、やたらと甘いものを食べてしまったりするのだそうです。
そんな食事ののちに引きずり込まれる眠りは、人間の身体をふくろのように単純でやわらかな構造に変えてしまう気がします。

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その他の短歌

火にかけるいいえ橋ではなくて鎌ひかりを力ずくで歪めて 小田原さかなセンター)

歌人からの一言

まぐろのカマを、半分は刺身で、半分は焼いて食べました。
刺身には、舌のもっとも原始的な部分に訴えてくる脂の旨みがあって、脂とは生きる力そのものなのだなと実感させられます。
カマは「鎌」、まぐろの頭と体の間の部位にあたります。
命を絶つとき切る場所に、切る道具を貼りつけたまま、一生を過ごすんですね。
食べることは、生きている肉体と、死んでいる食べ物のあいだに、力ずくで橋をかけることだなと思って作りました。


さらしあん煮れば心に積まれゆく同じ目方の砂金の袋 (- ⼩⽥原あんこ)

歌人からの一言

小田原あんこには、なにか豪奢な感じがあります。
成立の歴史に、途方もない財を成した経済界の大御所たちとのかかわりがあることや、甘味というものの持つある種の中毒性が、富と似ているからかもしれません。

その他の動画はこちら

うたの生まれるまち小田原の画像です。

この情報に関するお問い合わせ先

経済部:観光課

電話番号:0465-33-1521

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