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2015年11月27日(金)

小田原の街でこんな美術展 〜第80回記念西相展〜

このようなレポートをするときどのような立ち位置から書くのかを考えてしまう。美術(絵画)をみるとき、本来は言葉はいらない。しかし、人間の感情や思考は、表象しようとすると言葉に頼らざるを得ない。太古のむかし言葉がなかったころ、洞窟の壁に「絵」を掘りつけて感情や思考を表したのだろう。今では言葉がある。絵と言葉の矛盾がそこに生じる。
■美術展を目指してきた作品171点■
10月の28日から11月1日まで小田原市民会館で第80回記念西相展が開かれた。西相地域の会員・会友・一般の美術作品128点(洋画・日本画・彫塑)と高校生の部7校43点の合計171点が展示された。西相展は、5月の市展と並んで、小田原地域での最大最高の美術展。この美術展を目指して制作を重ねてきた完成度の高い作品ばかりだ。自分なりの印象を書いてみる。作家さんの「筆蹟」と違っていたらご容赦を願いたい。
■絵は何を語ろうとするのか■
【左】「ファンタジア」は、暖色系の面と線の交錯する中に、暗色が目線を誘導するように配された作品。動物らしいモチーフが見え隠れするが、これを“動物”と見てはいけないのかもしれない(奨励賞)。
【中】「街」は、画面を横切る暗色を背景に建物らしい白系が点在する。街の何を語ろうとしたのか、それとも何を語ろうとして街を描いたのか、と考えてみるとこの絵の前に立ち止まる時間が長くなる(東美賞)。
【右】「追想」は、暖色系と暗色系の落ち着いた色彩のなかに、いくつもの円形が交錯する。いま静かな時を過ごしながら過去の出来事に思いを馳せる。静と動が見事に調和している。
■成長を込めるモチーフ・寂寞のなかの慈愛■
【左】「形成層」は、植物の組織をモチーフにした作品。“形成層”とは、むかし学校で習ったように植物の外側の篩管と内部の木部の間にあって細胞分裂をする部分。作者は、モチーフの面白さと同時に創作への成長を込めているようだ。
【右】「白い向日葵の聖母」は、きわめて精神性の高い作品と思う。明るい陽光のもとで描きたい鮮やかな向日葵を(ときにドライフラワーのヒマワリがモチーフとして好まれることがあるが)、盛期を過ぎた花と葉を暗色でだけで表現している。聖母マリアの手はそのひとつに優しく触れている。作品は寂寞な中にも慈愛が強調されている。
■傘を持って思案しているのは午後の雨か人生か■
【右】「午後から雨」は梅雨時の作品か。背景に紫陽花が描かれている。雨傘はたたんで巻いたまま。この人物は、どこかに出かけるのか、傘を持って行こうかどうか思案しているのだろうか。人物が左寄りになっているのは、雨のことだけでない思案が背中にかかっているように見える(アート・ポエム賞)。
【左】「私の居場所」には、煙突のないダルマストーブ。もう使っていないのか錆で赤茶けている。木製のイーゼルと腰かけがある。もう絵はない。“私の居場所だった”思い出の部屋か。高校生たちが熱心に見入っている。
■大きな風景を点描の人が動かす■
「ノルマンディーの小さな港」。ノルマンディーは、大西洋に面した世界遺産にも登録されているフランスの古い商業港。絵はヨットの停泊するリゾートのようだ。後ろの街には、歴史を感じる建物の前にカフェのカラフルな日よけが対照的に並ぶ。街を歩く人、カフェでくつろぐ人、港を眺める人、風景画に人が見えると絵が動いてくる。会話も聞こえる。(第80回記念賞)。
■熱心に展示作品を研究する高校生たち■
西相展には高校生の部もあって、搬出日の日曜日は多くの生徒さんが先生とともに訪れ、展示された作品の前でじっと立ち止まったり眼を近づけたりして、熱心に研究していた。高校生の部の展示室に入ったとき既に搬出中で、個々の作品は見られなかったが、たまたま県立藤沢清流高校の生徒さんたちが記念写真を撮っていたので、脇からも1枚撮らせてもらった。
■感性と技術の両面からみる美術の深み■
だいぶ前だが、ある公募展に応募した。返ってきた講評に、モチーフの選び方、構図の取り方、色の使い方、モチーフと空間の関係、作品の完成度という5つ観点から、それぞれ評価がしてあった。いずれも基準に達せず選外であった。ここでは、西相展の入賞・入選作品などのごく一部の感想をレポートしたが、これから美術展を訪れるときには、鑑賞者の感動や制作者の感性とともに、このような“テクニカル”な観点からも見てみると、鑑賞力も増すのではないだろうか。(ゆきぐま 記)
第80回記念西相展(小田原市民文化祭参加)
会 期 2015年10月28日(水)‐11月1日(日)  終了
会 場 小田原市民会館
主 催 西相美術協会
照 会 西相美術協会事務局 080-6570-3860
 

2015/11/27 09:06 | 美術

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