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2024年01月23日(火)

<大ホールに響き渡るフルオーケストラの咆哮と稲妻のようなヴァイオリンの調べ>

(東京都交響楽団オーケストラキャラバン小田原公演)

令和5年11月13日は、小田原三の丸ホール大ホールにとって歴史的な日になるでしょう。
ステージ一杯に並んだフルオーケストラのその全力疾走の咆哮が、ホール一杯に響き渡り、この大ホールが充分にそれを支える事を、そしてたった1本の無伴奏ヴァイオリンの音色が稲妻のように三の丸ホール大ホールを切り裂き、会場の隅々まで行きわたる、素晴しい“音空間”を実現した日です。
その一日は、シルヴェストロフから静かに始まりました。
1.シルヴェストロフ(1937〜:ウクライナ):沈黙の音楽(2002)
現代のウクライナの作曲家によるこの曲は、18名の弦楽合奏で、静かな緊張感をもって演奏されました。祈りを籠めた沈黙とでも言える重苦しさで貫かれ、2022年2月24日に始まったウクライナでの悲劇(出典:月刊都響2023年11月号16ページ)を予見していたような音楽でした。ステージセッティングは、次のフルオーケストラによる椅子や譜面台が並べられた物寂しさをただよわせている中でしたが、これさえもこの重い沈黙にはふさわしく感じてしまいました。
2.シベリウス(1865〜1957:フィンランド):ヴァイオリン協奏曲ニ短調 Op.47(1903)
 “交響詩フィンランディア”(1899)で知られる作曲家のシベリウスによるヴァイオリン協奏曲です。ソリストのアレクサンドラ・コヌノヴァは、チャイコフスキーコンクール等の国際コンクールの上位入賞者として、世界的に注目を浴びているとは言え、まだ“知る人ぞ知る”と言っても過言ではない存在ですが、その奔放な響きを耳にした瞬間、このヴァイオリン奏者に巡り会えた幸せを感じた瞬間でした。三の丸ホール大ホールの神様を味方に付けて、そのヴァイオリンの響きは自由奔放にホールを満たしてくれました。
ヴァイオリンに限らず協奏曲の演奏で、楽章の途中の弾かない瞬間に、指揮者ではなくオーケストラの楽員とコミュニケーションを交わす(少なくともそう見えました)のを見たのは初めてですが、彼女から溢れ出てくる音楽は、その仕草の有無によらず、オーケストラと一体となって、三の丸ホール大ホールにシベリウスの音楽を奏でてくれました。
バーンスタインに学んだ指揮者のジョン・アクセルロッドは、この若くて奔放なヴァイオリニストを、自由に解き放ちつつ、前述の“交響詩フィンランディア”で象徴される様に、ウクライナとロシアに国境を接する静かなる大国、そして19世紀下旬から20世紀にかけてロシアの圧制下にあったフィンランドを代表するシベリウスの広大な世界を響かせました。
アンコール:イザイ:(1858〜1931:ベルギー)
無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番(イ短調作品27より第1楽章)(1924)
ヴァイオリニスト、作曲家そして指揮者でもあるイザイのこの曲をコヌノヴァのアンコールで聴くことが出来たのは、神の恵みを得られたようなものでした。一本のヴァイオリンだけで、そこに居並ぶオーケストラと三の丸ホール大ホールを従え、稲妻のように切り裂きながら奏でる調べをホールの隅々まで響かせ魅了してくれました。この一曲だけでもこのコンサートを聴いた価値があるような瞬間でした。
3.ショスタコーヴィチ(1906〜1975:ロシア):交響曲第5番ニ短調 Op.47(1937)
20世紀のロシアの作曲家ショスタコーヴィチの代表曲とも言えるこの交響曲第5番は、2台のハープ、チェレスタ、そして数々の打楽器を擁する大曲です。1937年の初演は、ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル(当時)という、金管楽器の祭典とでも言うべきこのショスタコーヴィチの交響曲第5番を、指揮のジョン・アクセルロッドは、素晴しい緊張感でまとめ上げ、三の丸ホール大ホールの隅々まで響かせました。
三の丸ホール大ホールで2回目の公演となる東京都交響楽団は、このホールの響きを完全に味方にして、アクセルロッドの指揮に応えました。コントラバスの響きを活かすためと推察される独特ステージセッティングから、広大なロシアの平原を思わせる重たい低音の響きが流れ、そこに金管楽器の怒涛の咆哮が戦いの凄まじさを伝えてくるようなこの曲の醍醐味を充分に味わうことが出来る演奏でした。
特に第4楽章で平野を疾走する様に思わせるような早いパッセージでは、かつて聴いたことのない程の早さと緊張感を求めるアクセルロッドの指揮に東京都交響楽団が応えた素晴しい演奏でした。終演後大ホール全体に響き渡る拍手の大きさが、演奏のすばらしさを物語っており、三の丸ホール大ホールもこの演奏を共に成し得たことに喜びを感じている様に思えました。
冒頭に述べたように、今回の都響の演奏は、このフルオーケストラの大音量、そしてヴァイオリン無伴奏の透き通るような音色を素晴しい演奏者と共に実現した、三の丸ホール大ホールにとっても記念すべき日になったと思います。
 
記:しげじい

2024/01/23 16:25 | 音楽

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