中村時蔵の「文売り」今回の公演の座頭は、中村時蔵です。五代目中村時蔵は四代目時蔵の長男で、屋号は「萬屋(よろずや)」です。時蔵は、歌舞伎界における「立女方(たておやま:女方の最高位の人)」として、平成20年には日本芸術院賞、平成22年には紫綬褒章を受章している名優です。本公演では、三番目の出し物の舞踊「文売り」で文売りとなり、台詞と踊りを演じます。今年の「平成28年度松竹大歌舞伎」小田原公演は、全国巡業公演の中央コースで、6月30日の埼玉県越谷市から始まり、7月24日の沖縄県浦添市まで日本全国16ヵ所を巡ります。中央コースの他に、7月の東コースと9月の西コースがあります。どのコースも、ほぼ一ヶ月で全国を巡ります。蒸し暑い時期に毎日のように移動しながら舞台で演じるのは極めて過酷な仕事で、よほどの体力と精神力がなければ務まらないだろう、と容易に想像できます。それも日頃のたゆまない稽古があってのことでしょう。満席となった大ホールで、パンフレットを読みながら開演を待つ間こそ、幕開きの期待が高まる時間であると云えましょう。2時になり、いよいよ開演です。