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2022年08月01日(月)

おだわら市民学校公開講座を聴講する

(写真1)けやきホールの受付風景(写真1)けやきホールの受付風景
 「おだわら市民学校」は、小田原市文化部生涯学習課が主催し、地域課題の解決のための担い手を育成する“新たな学びの場”です。1年目の基礎課程で「郷土愛」を、2年目の専門課程で「実践につなげる課題解決を担いうるチカラ」を2年間学びます。専門課程では、6つの専門分野の中から関心あるテーマを選びます。また、教養課程として「郷土の魅力を知り伝える」と「二宮尊徳の教えを継承する」が用意され、専門課程の受講者はこちらも受講することができます。このおだわら市民学校を市民へより広く知っていただくために、生涯学習センターけやきで「おだわら市民学校公開講座」が開催されましたので、聴講してきました。
1.おだわら市民学校公開講座
 7月23日土曜日の陽射しが厳しい真夏の午後、13時半の開場に間に合うように、「生涯学習センターけやき」へ出かけました。既に会場の準備は終り、13時半から受付が始まりました(写真1)。
 
(写真2)おだわら市民学校の紹介(写真2)おだわら市民学校の紹介
コロナ禍の第7波の拡大を受けて、会場の席には一つ置きに座るように紙が置かれていました。14時の開講までに、おそらく百人は超える聴講者が入場していました。14時に講座が開講しました。初めに、小田原市の生涯学習課田村課長よりスライドを使いながら、おだわら市民学校の概要の説明がありました(写真2)。おだわら市民学校は、平成30年度(2018年度)に開校し、令和2年(2020年)3月に第一期生が卒業しました。現在は、令和4年度の受講生が各課程で学習に励んでいらっしゃるそうです。
(写真3)基調講演をする神野名誉校長(写真3)基調講演をする神野名誉校長
2.基調講演『「幸福」に満ちた地域社会をつくるために』
おだわら市民学校名誉校長 神野直彦氏
第1部は、おだわら市民学校名誉校長の神野直彦(じんの
なおひこ)東京大学名誉教授による基調講演でした(写真3)。神野先生は経済学者で、ご専門は財政学や地方財政論です。国の地方分権改革有識者会議座長も務めていらっしゃいます。おだわら市民学校開校時より名誉校長として、機会あるごとに受講生や公開講座で地域社会の問題解決をテーマに講演をされてこられました。
(写真4)神野名誉校長の熱のこもった講演(写真4)神野名誉校長の熱のこもった講演
この日の講演テーマは、『「幸福」に満ちた地域社会をつくるために』でした。先生は、現在は「根源的危機の時代」であり、やり直しのきかない岐れ路に立っていると仰います。危機には、人間が生み出す恐慌や戦争などの「内在的危機」と、大震災やパンデミックのように人間の力ではどうにもならない「外在的危機」があります。ところが、現代は人間の活動によって、外在的である危機が生み出されている、即ち、「外在的危機の内在的危機化」が生れて地球全体と人類が絶滅する危機に瀕しています。現在、世界各地の川や湖、地下水がなくなってきています。昆虫もいなくなっているそうです。昆虫がいなくなると昆虫に受粉を頼る植物も種子ができなくなってしまいます。そういう現実の問題を解決できるかどうかは、私たちの態度次第である、と先生は熱を込めて強調されました(写真4)。

 また、「欲求」には「存在欲求」と「所有欲求」があるそうです。存在欲求は人と人、人と自然で充足される欲求で、幸福を実感します。所有欲求は自然を所有することで従属される欲求で、豊かさを実感します。工業社会は所有欲求を充足しましたが、現代のように知識社会へ移行すると存在欲求の充足を求め、「惜しみなく与え合う」という共同体的人間関係が求められるようになります。
 お店には人生の手段しか売っておらず、人生の目的は売っていません。愛情も友情もお店では買うことはできません。幸福は下から上へ噴出するよう(ファウンテン効果)にしなければならず、自治体はその条件を整備し、市民が幸福を創り出していくのです。「清らかな空気、澄んだ水、緑の空間」などの生活の場の質の向上が求められています。公園、美術館、博物館、スポーツ施設なども生活の「質」として求められています。
 神野先生は、地域の生活様式を充実させることが大切と述べられました。生活空間が人の創造活動の場となり、学び合う場が文化の形成に繋がっていきます。地域には、交流の場と出会いの場が必要であり、「道」も出会いの場となります。日本では子どもたちが道で走り回っていないと外国の人は驚くそうです。先生は、都市再生の例として、フランスのアルザス・ロレーヌの中心都市ストラスブール市を紹介されました。アルザス・ロレーヌは「最後の授業」で有名ですが、ストラスブールは1994年に路面電車(LRT)を復活させて自動車の市中心部への乗り入れを禁止し、「環境と文化」による都市再生を実現させました。当初反対されましたが、それによってかえって人が集まるようになり、EU議会や高等行政学院などが設置されました。そして、バイオなどの知識集約型産業が開花しています。都市全体が公園であり、美術館であるという羨ましいほどの都市になったそうです。神野先生は、住民たちの自発的な手で地域力を高め、「幸せなまち」を作っていかねばならないことを強調されました。
 神野先生の講演の始まりは地球環境問題であったので、地域社会問題とどう関係するのか疑問でした。それが、話が進むにつれて、人と自然、人と人の関係へと展開していき、最後は、ストラスブールの具体例を示しながら、現代の地方都市がめざすべき姿へと見事に導いていかれました。最後に話された、『子どもたちのための「緑の木陰と人間の絆の木陰」を創る』の言葉が心に残りました。
(写真5)事例発表1.三好さん:地域を元気にする(写真5)事例発表1.三好さん:地域を元気にする
3.活動事例発表

 後半の第2部は事例発表でした。令和3年度専門課程を卒業された三好正隆さんと福田茂さんの発表でした。最初の三好さんは、60歳で定年後、令和2年度に市民学校に入学し、専門課程では「地域を元気にする」を修了されました。そして、年間6千人が利用する谷津公民館の館長となり、便利で使い勝手の良い公民館をめざして奮闘されています。また、神社の氏子総代としても神社の伝統行事の手伝い、さまざまな神社の年中行事を宮司と一緒になって取り組まれています。更に、「健康おだわら普及員」として、小田原市の健康づくり課と協力して地域の健康行事を実施されています。三好さんの報告からは、市民学校をきっかけに地域に密着した活動に取り組まれている姿がよく分かりました。(写真5)
(写真6)事例発表2.福田さん:地域の生産力を高める(写真6)事例発表2.福田さん:地域の生産力を高める
 福田さんは、平成9年から小田原に住まれていますが、定年となり時間的余裕ができたので令和2年に市民学校へ入学し、専門課程では「地域の生産力を高める」を修了されました。神奈川県の中高年ホームファーマーに参加していて、農業に関心があったそうです。受講後は、令和3年末には神奈川県農業サポーターの認定を受け、令和4年4月から5aの休耕地を借り、7月には10aの農地を追加で借りて野菜作りを始めました。福田さんは、鳥獣や害虫による被害、周りに農業をやっている人がいない、売り先を探すのが大変などの課題を抱えながらも、農薬に頼らない農業、地域の風土に合った野菜作り、ITを活用したカン・コツに頼らない農業など、チャレンジ精神にあふれた農業に取り組まれている様子がよく分かりました。福田さんの事例も、自分の関心事への取り組みのきっかけは、市民学校であったことが分かりました。(写真6)
 事例発表されたお二人に共通することは、市民学校で「小田原のことを知ることができた」こと、「新たな出会いを得た」こと、「地域の活動の輪に入っていけた」ことがあるようです。神野先生の講評でも、地域の人との交流し連携していて様々な地域問題を解決していくこと、風土に合わせたモノ作りによって小田原内で回っていく地域を創ること、を指摘されました。
 
そして、神野先生が最後に述べられた、「言語もまたどんどん消えて行っている」、「言語が消えることは、ただ単に言葉がなくなるだけではなく、祖先が地域の自然から学んできたことが分からなくなることだ。」の言葉が、心に深く刻まれました。おだわら市民学校は、単に市民たちの自主活動のきっかけとなるノウハウを学ぶ場を提供するだけに留まらず、小田原の自然にはぐくまれて祖先たちが培ってきた生活や様々な文化へ再び目を向け、そこから人と人とがかかわり合っていくことの大切さを学ぶ場なのだと、改めて感じました。
◆ 深 広目 記 ◆

2022/08/01 13:53 | その他

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