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2021年10月21日(木)

スタインウエイ・ピアノと鬼滅市松模様

(写真1)コンサートのチラシ(写真1)コンサートのチラシ
 9月5日日曜日に、御堀端通りに面した「小田原三の丸ホール」のオープニング・セレモニーが開催され、市民が待ち焦がれたホールが開館した。12日の野村萬斎による「三番叟」、19日のボニージャックスとベイビーブーによる「小田原童謡大使コンサート」と、毎日曜日に開館記念事業が続いた。そして、9月26日、開館記念事業の最後を飾ったのが、「中根希子 ピアノ開きコンサート」であった(写真1)。
(写真2)イラストレーション(写真2)イラストレーション
 三の丸ホールの2階へ上がると、大ホールのホワイエ入口となる。入口扉の脇に大きな看板とイーゼルに置かれた爽やかな絵画が飾ってあった(写真2)。森の中で黄色のドレスを着た女性がピアノを弾いている。ピアノからは花々や蝶、白鳩などが空へ舞い出ている。そして、三の丸ホール周辺に観られる草花を描き、緑の陰に白兎やサギがピアノの音色に惹かれて集まり、耳をそばだてている。そんなメルヘン調の魅力的な絵の作者は「たじまひろえ」さんで、湯河原町にお住いのアーティストである。このピアノ開きコンサート用にビジュアルイラストレーションを担当されたそうだ。チラシやパンフレットにもピアノのイラストが用いられていた。
(写真3)大ホールの舞台(写真3)大ホールの舞台
 大ホールの客席は、貝殻の中にいるようだ。どこからでも舞台が間近かに感じられる。舞台の反響板は木製である。音響として音の柔らかさが期待できそうだ。大ホールの座席は1105席あるが、コロナ禍のため半分に減らしている。一つ置きに緑色の布が掛けられて観客同士の距離を保っている。座席の背もたれにスズランテープが縛ってある無粋なホールもあるが、ここでは、緑色の布が落ち着いた雰囲気を醸していた(写真3)。
(写真4)スタインウエイのピアノ(写真4)スタインウエイのピアノ
 座席は指定され、私は客席両側に張出すバルコニー席であった。開演までまだ時間があったので1階客席まで下り、舞台の前まで行ってピアノを見た。ピアノはスタインウエイのコンサートグランドピアノ D-274である。それは新品の輝きを放ちながら、広々とした舞台にも負けずに威風堂々と静座していた。モノでも凛とした孤高の姿を現すことがあるのだ、とその存在感に驚いた(写真4)。
(写真5)スタインウエイのロゴ(写真5)スタインウエイのロゴ
 スタインウエイ・ピアノのロゴなどを撮っていると、表面に不思議な柄が現れているのに気付いた(写真5)。
(写真6)スタインウエイと鬼滅の市松模様(写真6)スタインウエイと鬼滅の市松模様
なんとそこには、鬼滅の刃の主人公竈門炭治郎(かまど たんじろう)が着る羽織の柄である市松文様が映っていたのである。緑色の正体は、コロナ禍対策で座席に張られた緑の布地である。一点の曇りもない漆黒の鏡面に、緑の四角が鮮やかに浮き出ていた。その四角は、グランドピアノの側板(がわいた)の曲線に沿って微妙に変形デザインとなっている。そして、ピアノの大屋根の内側には赤いフェルトが映り込んで、補色の緑色と赤色が鮮やかに対比していたのである(写真6)。
 中根さんは、第1部の演奏にドビュッシーを選ばれた。「忘れられた映像」、「月の光」、「アラベスク第1番」、「版画」の4曲が演奏された。静寂の中に「月の光」が流れると、まるで月の光があふれ出てくるように会場が包み込まれた。真新しいピアノから、中根さんがホールの隅々まで淡い月光の音色を解放しているようであった。
 中根さんは、ピアノの選定作業も担っていた。その様子は第2部の頭にドキュメンタリー映像として流された。選定の際にも中根さんは「月の光」を演奏されていた。中根さんにとって、この曲こそがピアノの音色を色鮮やかに再現できるかどうかの判断に適している、と考えていたのかもしれない。選定後に大ホールへ運び込まれたスタインウエイは、調律後に中根さんによって弾き込みが繰り返されて、大ホールに馴染んでいった。大ホールの中で聴く「月の光」は、中根さんの半年以上にわたるご努力の結晶なのだと感じ入った。中根さんの「楽器は生き物。最初は目も合わせてくれなくても、語り掛けていくうちに答えてくれるようになる。」という言葉には、ピアノを慈しみ育て上げるピアニストの優しさを思わせた。
(写真7)中根希子さん(写真7)中根希子さん
 第2部の演奏が終わり、万雷の拍手が会場に響き渡った。ボックス席に陣取っていた私は、思わず立ち上がって人生初めてスタンディングオベーションをしてしまった。気づくと後ろの席の友人も立ち上がっていて、二人でうなずきあった。
(写真8)中根さんを囲んで文化サポーターの皆さん(写真8)中根さんを囲んで文化サポーターの皆さん
 終演後、観客がはけた2階ホワイエへ中根さんが花束を持って現れ、スタッフに拍手で迎えられた(写真7)。そして、コンサートの表方を支えてきた「文化サポーター」の皆さんと記念撮影を行った(写真8)。これからも三の丸ホールの様々な公演は、三の丸ホールの技術や事務の裏方スタッフや文化サポーターの皆さんのご尽力によって、来場した市民の方々へ感動の思い出を残していくことだろう。 
(深野彰 記)
 
※当日の演奏内容については、「中根希子ピアノ開きコンサート」も併せてお読みください。

2021/10/21 13:43 | 音楽

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