(写真1)コンサートのチラシ 9月5日日曜日に、御堀端通りに面した「小田原三の丸ホール」のオープニング・セレモニーが開催され、市民が待ち焦がれたホールが開館した。12日の野村萬斎による「三番叟」、19日のボニージャックスとベイビーブーによる「小田原童謡大使コンサート」と、毎日曜日に開館記念事業が続いた。そして、9月26日、開館記念事業の最後を飾ったのが、「中根希子 ピアノ開きコンサート」であった(写真1)。
中根さんは、第1部の演奏にドビュッシーを選ばれた。「忘れられた映像」、「月の光」、「アラベスク第1番」、「版画」の4曲が演奏された。静寂の中に「月の光」が流れると、まるで月の光があふれ出てくるように会場が包み込まれた。真新しいピアノから、中根さんがホールの隅々まで淡い月光の音色を解放しているようであった。
中根さんは、ピアノの選定作業も担っていた。その様子は第2部の頭にドキュメンタリー映像として流された。選定の際にも中根さんは「月の光」を演奏されていた。中根さんにとって、この曲こそがピアノの音色を色鮮やかに再現できるかどうかの判断に適している、と考えていたのかもしれない。選定後に大ホールへ運び込まれたスタインウエイは、調律後に中根さんによって弾き込みが繰り返されて、大ホールに馴染んでいった。大ホールの中で聴く「月の光」は、中根さんの半年以上にわたるご努力の結晶なのだと感じ入った。中根さんの「楽器は生き物。最初は目も合わせてくれなくても、語り掛けていくうちに答えてくれるようになる。」という言葉には、ピアノを慈しみ育て上げるピアニストの優しさを思わせた。