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2023年03月06日(月)

小田原ゆかりの刀剣展

(写真1)刀剣展のチラシ(写真1)刀剣展のチラシ
2月18日(土)から3月12日(日)まで、小田原城天守閣4階企画展示室において『小田原ゆかりの刀剣』展が開催されています(写真1)。
(写真2)小田原城天守閣入口石段の行列(写真2)小田原城天守閣入口石段の行列
2月23日は天皇誕生日の祝日のためか、多くの 家族連れや観光客が小田原城周辺を巡っていました。天守閣への石垣の石段にも長い行列ができていて、私も並んで入りました(写真2)。
(写真3)太刀 銘 相州小田原住義助作(写真3)太刀 銘 相州小田原住義助作
 刀剣展は天守閣の4階で開かれています。小田原城の入城券で刀剣展も見ることができます。お城ですからエレベーターもエスカレーターもありませんので、お年寄りには ちょっと急な階段が大変かもしれません。4階のフロア―では、ぐるりと外壁に沿って展示コーナーになっていて刀剣が展示されています。
(写真4)刀 銘 綱家作(写真4)刀 銘 綱家作
刀剣展と云っても、国宝級の名刀の展示会ではなく、展覧会題名に「小田原ゆかりの」と付いているように、室町時代から江戸時代に小田原相州で盛んだった刀剣が多数展示されています。「太刀(たち)」は、刃が下になるように展示されています。一方、「刀」は刃を上に向けて展示します。太刀は、平安時代まで実戦用でしたが、下賜品や 儀礼的贈答品、神社への奉納品としても制作され、豪華な拵(こしら)えが特徴です。太刀は、馬上での戦いに対応して刃を下にして腰に吊下げていました。一方、刀は刃を上にして腰帯に差していました。そのため刀掛台には、太刀は刃を下に、刀は刃を上にして置くようにしています。
 会場入口すぐにある「太刀 銘 相州小田原住義助作」は、室町時代の作です(写真3)。
(写真5)脇差 銘 相州住康広作(写真5)脇差 銘 相州住康広作
 長さは72cmです。義助は駿河国島田の刀工でしたが、伊勢氏の招きで小田原へ移り住み、小田原相州鍛冶の先駆けとなりました。「刀銘綱家作」は、室町時代の作で長 さは64.3cmあります(写真4)。「綱家」は、綱広・康国とともに天文7年(1538)に二代北条氏綱の命で鶴岡八幡宮奉納太刀を作った小田原相州の代表的刀工です。本展覧会では、「初公開」の作品が多数展示されているのも魅力です。「脇差 銘 相州住康広作」は、室町時代から安土桃山時代の作で、長さ47cmの脇差です(写真5)。康広は小田原相州の刀工 で、康国の子、または島田定広の子ともされています。刀や太刀、脇差の他、短刀、槍、なぎなたも展示されていますので、本展覧会では北条氏ゆかりのさまざまな刀剣を見ることができます。
(写真6)北条氏政書状(写真6)北条氏政書状
 初公開では、刀だけでなく書状もありました(写真6)。「北条氏政書状」です。年代は未詳ですが、四代 北条氏政が勝浦城(千葉県)の正木十郎(時通)へ宛てた書状です。氏政が時通から新年の祝儀として太刀一腰と鳥目二百疋(銭二千文)を贈られた返礼として一振を贈呈したときの添状である。氏政の花押が記されています。太刀や刀が贈答品でもあったことが分る貴重な書状です。
(写真7)対談会(写真7)対談会
 刀剣展の初日、2月18日(土)に、特別講演会「刀剣の魅力を知る」が三の丸ホールの小ホールにて開催され、参加してきました。刀剣女子ブームか、女性の姿も多く見受けました。最初に、春風館関東支部主宰の赤羽根大介氏と道場による古武術演武が披露されました。剣術、居合道、合気道などの迫力ある古武術が演じられました。講演では、小田原城天守閣学芸員・岡潔氏による日本刀の解説、研師・小野敬博氏の刀の研ぎにつ いての解説、刀工・下島房宙氏の刀鍛冶による刀鍛造のビデオ上映と解説がありました。小野氏の 訥々とした語り口に職人としての一途な想いが伝 わってきました。また、下島氏が若くして、刀工に魅せられて弟子入りに押し掛けた話で、「このような仕事をする人は変人か変態者しかいない」の言葉に会場の笑いを誘っていました。
(写真8)対談会・2(写真8)対談会・2
 講演後に、研師の小野氏と刀工の下島氏の二人が再登壇して対談会となりました。(写真7・8)お二人とも弟子は取っていないため、現時点で後継者はいないそうです。また、困っていることして、 研師小野氏は、砥石が入手できないことを挙げていました。砥石の制作者がいないのではなく、砥石の原石を山から掘り出す人が今はもういないのだそうです。刀工の下島氏は、焼き入れ に用いる炭が少なくて、値段が4倍にもなっていると話されました。松から作る炭は、東北地方の炭焼き窯で生産されていましたが、東日本大震災で炭焼き窯にヒビが入って使えなくなり、炭焼き職人も高齢であったため、それを機会にみな炭焼きを辞めてしまったそうです。お二人のお話から、日本の伝統工芸の底辺部はもう既に崩壊している実態が伝わってきました。最近の刀剣ブームで刀工や研師が脚光を浴びていますが、一方で、その基盤が極めて脆弱になっていて、将来的な見通しは明るいものではないと感じました。金沢の加賀友禅でも絵を描く極細の筆が入手困難なのだそうです。筆に用いる毛は琵琶湖湖畔に住むミズネズミの毛を用いるそうですが、琵琶湖の環境変化でミズネズミがいなくなっているそうです。日本の伝統工芸は自然とともに生きて伝えられてきましたが、地球環境問題や日本社会の高齢化、賃金格差などの様々な今日的問題を背負いながら、職人さんたちは日々苦闘しているのだ なあと思いながら、会場を後にしました。
 
刀剣展は、小田原文化の多様な一面を知るよい機会となっているように思いました。
是非お出かけください。

◆ 広目子 記 ◆
小田原市ゆかりの刀剣展
https://odawaracastle.com/news/ujiyasu-copy.html
日時:令和5年2月18日(土)~3月12日(日)
会場:小田原城天守閣:9時~17時 
入場料:一般510円、小・中学生200円
問合せ:〒250-0041 小田原市城内3-22小田原城総合管理事務所

2023/03/06 10:29 | 歴史

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