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2023年07月13日(木)

荒久の赤い灯台

御堀端通りから三の丸小学校の前を通って、まっすぐ海の方へ国道1号線を渡ると御幸の浜通りとなる。突き当りの階段を降りて西湘バイパスをくぐると御幸の浜海水浴場。左手にはプールがある。海辺に出て、東は房総半島、西は伊豆半島をみて、壮大な気分になったところで、右手遥かに赤い灯台が目に入る。
小石に足を取られながらもやや行くと、小高くなって灯台がある。蒼穹のもと紺碧の海に映える赤の強烈な印象。柵を回って灯台の近くまで行ってみる。海岸から見た水平線がさらに広がって見える。水平線に大島が霞んでいる。突堤の先では、部活帰りの高校生たちか、並んでじっと海を見つめている。ジャンパーを着た釣り人、釣果はどうか。灯台を背景に写真を撮る二人連れ。
ここからは海岸線が後ろにある。東は国府津、西は真鶴へと続く真っ白な汀線は、まるで人と海の犯しがたい境界のようだ。釣り人のテントが鮮やかなアクセント。西の箱根連山に日が入るころ、波打ち際の子どもたちのシルエットが金色に輝く。だが、灯台は何事もなく誰を拒むでもなく佇んでいる。赤い灯台からみる景色は文学的だ。
小さな灯台が小田原の海の歴史を語る。
小田原から大磯にかかる海岸は酒匂川の流砂の影響をうける酒匂川漂砂系海岸。酒匂川流域の治水のためのダム建設や河川改修によって土砂の流出量が激減した結果、戦後40年の間に海岸線が20メートルも後退し、いまの小石の海岸になったという。この海岸維持と漁業振興のため、海底に人工リーフと潜堤が整備され砂浜の安定化が図られている。
この赤い灯台は、通称は荒久の灯台、正式には突堤(御幸の浜)標識灯といい、航路の安全のため平成8年に突堤のうえに設置された。海面から約5メートル地上2.5メートルとのこと。夜間には灯火が点く。とくに立ち入り制限はないが、安全柵はないので注意が必要。この灯台を境に東が御幸の浜、西が荒久海岸とされている。荒久海岸では、今も人工リーフの設置工事中だ。人間の生活を保全するためには自然に手を加えなければならないこともある。その結果、どこかに負の影響を生むこともある。そこで人は、これを克服し新たな世界を創造しようとする。荒久の灯台は、自然と人間の調和のシンボルだ。たったひとつの赤い灯台が、酒匂川源流から今の小田原の海にいたる歴史を語っている。そこに小さな赤い灯台があるだけで、この広い海岸も意味を持つ。灯台の小さき程に夏の海。
(資料を基としたレポーターの推測を含む)
ゆきぐま 記

2023/07/13 12:30 | 歴史

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