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2015年01月06日(火)

小田原の街でこんな美術展 ―新九郎アートフェスティバル-

■ミュージック・ストリートにちょっと寄って■
錦通り入口のポケットパークでミュージック・ストリートの真っ最中だった。トナカイの頭のぬいぐるみをつけて、恋人の歌をギターで歌い上げる陽気なお兄さん。椅子に掛けて3曲ほど聞いた。普段は無関心に聞き流しながら通り過ぎるが、こうやって3曲も聞くと手をたたきたくなる。これから行く作品展の前奏曲。昨年末12月21日、小田原銀座通りの伊勢治書店3階にある「ギャラリー新九郎アートフェスティバル2014」に行った。神奈川県在住作家8人の新九郎企画展。暮れも押し詰まり他の画廊がひっそりとしているなかの美術展だった。年が明けて、そろそろ街のギャラリーは新春展で賑わうころだ。
■酒匂川の松から万人の共感へー「松」■
木下泰徳さんの「松」は、2014年神奈川県美術展入選作。S100号(1辺(1m62㎝の正方形)のカンバスに黒々と松の幹が交錯する。いつもの散歩道である酒匂川堤防に生える松並木の風景とのこと。しかし、枝を張った松も明るい空も、木下さんのカンバスでは松でもない空でもない。この作品には具体的な場所や物を超えた万人に共感を呼ぶ普遍性がある。横井山泰さんの作品は「プレゼント」。暗幕を開けている猫がいる。“暗幕は光の帯に変わっていった“と横井山さんはいう(新九郎通信12月号)。人のために光を届ける猫は、横井山さんの分身か。横井山さんの作品に登場する人物や動物はなにかしら語りかけてくる。2004年に第7回岡本太郎記念芸術大賞展特別賞を受賞。
■見知った風景が知らない風景に変わるー「あやつり糸の旅II」■
岡村このみさんの描く「あやつり糸の旅II」。“日常の見知った風景が、よそ者の登場で突然知らない風景に変わる”と書く(同通信)。16個のコマに描かれたものは、突然知らない風景に変わった「日常」か。ひとつひとつ岡村さんの日常へ遡及して鑑賞するのも楽しい。2014年神奈川県美術展大賞も受賞した経歴。 日常の中でなぜか目が離せなくなる情景、目にとまる瞬間を追う”と今村綾さん(同通信)。今村さんの作品「spring」は、焦点を外した点々とする光の列は危うい日常を、そして光が浮かぶ青の深さは知ることのできない未来を暗示するようだ。2011年には第30回損保ジャパン美術財団選抜奨励賞を受賞した。
■東北の黒く深い海から鎮魂の思いー「月下」■
吉本伊織さんは石巻に滞在して制作したという「月下」と「海へ」。月に照らされた黒い海には鎮魂の思いが沈む。「解き放たれて」は、二宮宗子さんの「日の出シリーズ」。“部屋に飾って楽しんでいただける作品を目指す“。部屋という日常から解放を暗示する。藤本因子さんのライフワーク「風シリーズ」。藤本さんのアトリエには、街・海・山の風、赤・青・黄の色とりどりの風、明るい風・暗い風、感じる風・感じない風・・・さまざまな風が吹いていることだろう。絵画教室アトリエ・コネコ主宰。根府川に工房を構える鈴木隆さんの陶芸作品は、蜜柑灰の釉薬を使った白磁や青磁の洗練されたフォルムに、ひびが独特の気品を添える。
■作家さんの眼を通ると個が普遍へ■
この企画展、ギャラリー新九郎の木下泰徳さんの眼力で招待された8人の作家さん。その共通する想いは、日常から非日常への昇華と見える。個人個人の体験が作家の眼を通ると普遍性をもつ。いい換えれば、非日常とは普遍的なものといえよう。旅に出る、コンサートに行く、美術館へ行く、お祭り騒ぎをする・・・非日常の世界だ。そこで人々は、普遍性という哲学を知らず知らずに語っている。
(記 ゆきぐま)
 
新九郎アートフェスティバル2014
期間 2014年12月17日(水)-22日(月)終了
会場 ギャラリー新九郎 小田原市栄町2-13-3 伊勢治書店本店3F
    電話 0465-22-1366

2015/01/06 08:49 | 美術

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