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2022年08月09日(火)

小田原三の丸ホール 森麻季 音の美術館 ―イタリア美への旅路―

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朝からの雨が上がり、午後からの日差しが熱い7月17日、三の丸大ホールで、当代随一のソプラノ森麻季さん(ピアノ伴奏・山岸茂人さん)の演奏会が開催されました。イタリアの美の世界を、森麻季さんの素晴らしい“うた”と、投影された名画の数々と共に巡るという大変贅沢なコンサートです。ナビゲーターは文筆家・文化芸術プロデューサーの浦久俊彦さん(一般財団法人日本芸術財団代表理事)でした。

プログラムに添えられた「ルネサンス〜はるかな美への旅路」という“ようこそ音の美術館へ!”という浦久俊彦さんからのメッセージ通りに、三の丸ホールはまるで”三の丸美術館”のよう。ステージの高い天井を活かした巨大なスクリーンには、ジョット・ディ・ポンドーネ(1267?-1337)の「キリストの磔刑」フランチェスコ・アイエツ(1791-1882)の「接吻」など50点におよぶイタリア絵画が、解説とともに次々に投影されていきました。ルネッサンス期に活用された遠近法は、神の視点から人間の視点を得たことに意義があるという浦久俊彦さんの解説も成程と思い当たる次第でした。

第1部では、森麻季さんは明るいイタリアの空を思い起すような淡い碧色のドレスで登場され、カッチーニ(1545?―1618)の名曲「アマリッリ」から歌い始め、三の丸ホールはルネッサンスの伸びやかな世界に満たされました。まっさらな静寂の中に、森麻季さんの第一声が響いたときの衝撃はいつまでも脳裏に焼き付いて離れません。森麻季さんはステージ上の談話で「リハーサルの時から感じていたが、ここはどこに居ても大変良い響きのホール。折角の奥行きを活かすために、ピアノを少し下げていただいた。」とお話しされておられ、その想いに応えてステージも一緒に歌っているような心地よさでした。

森麻季さんを知り尽くしているとおっしゃる素晴らしい伴奏者・山岸茂人さんも、三の丸ホールの完成と共に購入された若武者ピアノのスタインウェイを乗りこなして歌に寄り添います。バッハのイタリア協奏曲の独奏では、明るく爽やかな音楽を奏でておられました。第1部の最後は、シューベルト・バッハ・グノー・マスカーニをアレンジしたアヴェ・マリアの名曲たちという楽しいプログラムで会場全体が明るさに包まれ、第1部が終わりました。
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第2部はがらりと趣向を変えて、真っ赤なドレスで登場された森麻季さん。「椿姫」の“ああ、それは彼の人か〜花から花へ”から始まり、ヴェルディーからプッチーニの数々のオペラの名曲を歌われました。森麻季さんのドラマティックな熱唱によりその情熱がホール全体に満ちあふれました。このイタリアならではの情熱の世界で、真っ赤なドレスに包まれた森麻季さんは第1部とは別人のように歌い上げられました。続いてグルッグの「オルフェオとエウリディーチェ」からの“メロディ”の独奏でひとときの安らぎを得てから、「ラ・ボエーム」などからの数々の名曲は圧巻の迫力で、イタリア語に慣れない方でも、その音楽の魅力に浸りきったことと思います。

浦久俊彦さんの「中世は作者はおらず、神が降りてきて作品が出来る。ルネッサンスになると人間が作ることが出来るようになり、人間のための、人間が楽しむ音楽となる。そして“オペラ”は、神の手によらずに人間の作品として生まれるものだ。」とのお話しが有り、森麻季さんの“うた”と背景に投影されている絵に対する理解が進みます。この情熱的な第2部は、万感の拍手と共にアンコールを迎えます。

アンコールの曲は、趣が変わり、「初恋」と小田原にも縁の深い北原白秋の「からたちの花」がしみじみと、ホール隅々にしっとり響きわたりました。まるで三の丸ホール自身も森麻季さんの熱唱に合わせて力を出し切り、アンコールで我に返ったような静けさの中で、素晴らしいコンサートが終わりました。

森麻季さんは、コンサートの当日、ホール入りして直ぐ、ピアノとの音合わせ、ご自身の立つ位置の確認、プログラムの軽めの通し稽古が終わって、舞台袖に引き揚げて来た際、ご挨拶のために舞台袖で待っていた大石館長に、最初におっしゃったのが、ホールの響きの良さと、客席のデザインの美しさだったと言うことです。

そしてコンサートが終わり、お見送りの際、別れ際に、大石館長に「ホールの響きが良いので、気持ち良く歌えました、小田原に素敵なホールが出来て良かったですね。」とおっしゃっておられたそうです。

私も、是非この三の丸ホールでレコーディングをしていただきたいと思いました。
いつの日かレコーディングなどが実現し、その響きが永遠に留められたらどんなに良いでしょう。会場に足運んだ多くの方が、きっと同じ思いでいるのではないのではないか、ホールを去る観客の笑顔からそのようなことを思った1日でした。
 
しげじい

2022/08/09 14:37 | 音楽

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